こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テッド2 TED2

otello2015-08-31

テッド2 TED2

監督 セス・マクファーレン
出演 マーク・ウォールバーグ/アマンダ・サイフリッド/ジョヴァンニ・リビシ/ジョン・スラッテリー/ジェシカ・バース/モーガン・フリーマン
ナンバー 202
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

見かけも中身もクマのぬいぐるみだけれど、最も大切な相棒である事実を疑ったことはなかった。周囲の知人も世間の人々も“人格”を認め、友人同様に交流してくれていた。だが、たとえ思考や感情を持っていても、役所から見れば所詮は“モノ”でしかない。物語は、主人公の親友として長年地元に馴染み普通に暮らしてきたテディベアが突然自身の価値を問われ、アイデンティティを求めて戦う姿を描く。“愛”や“心”を宿しているだけでは人間とは言えず、より正しく生きる姿勢を示し何より社会に有用であると証明しなければならない。ところが不良生活から抜ける気のないぬいぐるみには非常に高いハードル。危機的状況に追い込まれてもなお改心せず悪ふざけばかりするキャラクターが、小憎らしさの中に愛おしさを感じさせる。

職場の同僚と結婚したテッドは養子をもらおうとするがあっせん機関が拒絶、それを機に州政府がテッドの市民権を停止する。ジョンはテッドの権利を回復するために弁護士のサマンサを雇い、法廷闘争に臨む。

サマンサが、いかにテッドがジョンにとって重要かを訴えても、テッドの商品化を目論む玩具会社が送り込んだ有能な弁護士はテッドの人権を否定する。陪審の評決も、テッドはジョンの所有物。ジョンのテッドへの友情は個人的な思い入れにすぎないと判断される。あきらめられないジョンたちは、サマンサの尽力でNYの有名弁護士を頼り上訴する決意を固める。とはいえ、少しは人生に対し真摯な態度を取るかと思われたジョンとテッドが、相変わらずアホで間抜けな行為を繰り返し、笑わせるのを忘れない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

しかし、あまりにも公徳心に欠けるテッドの行状を知ったNYの弁護士は依頼を拒否、テッドたちは途方に暮れる。映画はその後、今や現実となりつつある人工知能ロボットを我々がどう扱いどう接していくのか、その法律的な解釈を示唆する先見性を見せていく。でも、やっぱりテッドは、“人はこうあるべき”となどという道徳的な模範からは対極の存在であってほしいものだが。。。

オススメ度 ★★★

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ハーバー・クライシス 都市壊滅

otello2015-08-29

ハーバー・クライシス 都市壊滅 痞子英雄 黎明再起

監督 ツァイ・ユエシュン
出演 マーク・チャオ/ケニー・リン/ホアン・ボー/チャン・チュンニン
ナンバー 195
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

交通量の多い巨大なつり橋、運行中の高速鉄道、地下深く張り巡らされたトンネル、捜査機関が入る高層インテリジェントビル。それら最先端技術を駆使した社会インフラが次々と爆破されていく。実行犯はみな指名手配中の凶悪犯、四方を海に囲まれた大都市は孤立し、世界を根底から覆す“革命”を計画する者たちの手に落ちる。物語は、そんな町で“警察の顔”として英雄視される男と頭脳明晰だが皮肉屋の相棒の刑事2人組の活躍を描く。陰謀のニオイを嗅ぎ取ったら後先考えず首を突っ込む熱血派の主人公が繰り広げる命がけのアクションの連打は、激しい銃撃戦から肉弾相うつ格闘の興奮と、危機一髪の救出と間一髪の脱出のスリルが満載。最後まで息切れすることなく全力疾走する。

町のあちこちで連続爆弾テロが起き、夜行者と名乗るグループが犯行声明を出す。彼らはさらに電磁波攻撃を仕掛けて電子機器を使えなくした上に、致死性のウイルスを搭載したロケット弾を発射しようとする。

テロ現場に急行したウーは同じく捜査員のチェンと合流、事件に関わるうちに軍の特殊部隊が動き出していると知る。いまや警察の手に負える案件ではない、それでもウーとチェンは独特のカンを頼りに独自に夜行者を追う。そして、目の前の数人を救うべきか見えない数百万人を救うべきかの選択に直面する。特殊部隊の訓練を受けた重武装のテロリスト相手に奮闘するウーは、もはや刑事というより鍛え上げられたスパイ。彼の突き抜けた暴走ぶりはかえって心地よい爽快感をもたらしてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて夜行者の目的が政府の転覆とかいったスケールではなく、全人類規模の人口抑制であると判明、ウーたちは神を気取るリーダーに迫っていく。その間、凄腕の女殺し屋との死闘や崩壊する高層ビルからヘリに飛び乗るなどの限界に挑む過激なシチュエーションをウーはくぐり抜ける。でも、機銃搭載のドローンに飛び乗って墜落させるアイデアがいちばん楽しかった。。。

オススメ度 ★★*

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ふたつの名前を持つ少年

otello2015-08-28

ふたつの名前を持つ少年 LAUF JUNGE LAUF

監督 ペペ・ダンカート
出演 アンジェイ・カクツ/カミル・カクツ/ジャネット・ハイン/ライナー・ボック/エリザベス・デューダ/イタイ・ティラン
ナンバー 200
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

着の身着のままの脱出、食料は農家から盗み森で野宿する。ひとりぼっちで凍えていた少年は、そこで初めて赤の他人の親切を知る。本気で心配してくれる大人がいる、そう考えるだけで彼は人間らしい心を取り戻し、愛想笑いで施しを乞い労働で食事にありつこうとする。物語は第二次大戦中ドイツ占領下のポーランド、ゲットーから脱走しナチスの目をごまかしながら生き抜いたユダヤ人少年のサバイバルを追う。カトリック信者を装ってもユダヤ人とばれそうになると潜伏場所を変えなければならない。そして続く放浪と物乞いの日々。ほとんど門前払いされ、時に騙されたこともある。だからこそ善意と出会ったときの喜びは大きい。命の危険を冒してまで主人公を助ける勇気を普通の人々から引き出した、彼の笑顔がまぶしい。

ユダヤ人地区から逃げ出したスルリックは浮浪児のグループと合流するが、ナチスの捜索ではぐれてしまう。冬になり、行き倒れていたところをパルチザンの妻・マグダに看護され、ユレクというポーランド名を名乗る。

ユレクはカトリックの習慣やお祈りを覚え、偽の身の上話でポーランド人孤児になりきろうとする。それでも割礼痕は隠しきれず、追っ手が近づくともはやそこには留まれない。その間、ユレクをナチスに売る老夫婦がいたり、ユレクの正体を知ってもなお彼の知恵と行動力を認めて手出しをしないSS将校がいたり、大けがをしたユレクの手術を拒む医師もいれば率先して治療する医師もいる。ドイツ軍人にもポーランド市民にも善悪二元論では語れない複雑な思いが交差し、安堵と恐怖の間でユレクの運命を翻弄する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてソ連軍の侵攻でユダヤ人は解放されユレクの逃亡生活も終わる。だが、行くあてもなく農家の世話になるしかない。生死ギリギリの狭間で徐々に感情を失っていくユレクの、決してあきらめずに父との約束を守ろうとする姿は、精神的な支えが人を強くすると教えてくれる。ただ、ユレクの髪型がいつも整っているのが不自然だったが。。。

オススメ度 ★★*

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チャンス商会 初恋を探して

otello2015-08-27

チャンス商会 初恋を探して

監督 カン・ジェギュ
出演 パク・クニョン/ユン・ヨジョン/チョ・ジヌン/ハン・ジミン/チャンヨル/ムン・ガヨン
ナンバー 198
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

頑固一徹、若輩の言葉には聞く耳持たず、時代の変化に置き去りにされたと悪態をつきつつも、決して己の流儀を曲げない。海兵隊出身が自慢で肉体は壮健、ひとり暮らしは苦にならないけれど時々物忘れする。映画はそんな老人が近所の老女に惹かれ、若き日の情熱を取り戻していく姿を描く。女性とつきあった記憶がなくぶっきらぼうな態度が直らない彼に、周囲の人々が力を貸そうと有用無用のアドバイスをする場面が楽しい。不安と緊張、連絡したり準備するのは面倒くさいし気も使う。しかしそれ以上に相手と一緒に過ごす時間を大切にしたい。誰かを好きになる喜びはいくつになっても生きる原動力、しかめっ面の主人公が徐々に頬を緩め目尻を下げていく過程が、恋の素晴らしさを象徴していた。

小売店で働くソンチルは向かいに引っ越してきたグンニムから食事に誘われる。店の若社長にレストランでの作法を教わり、スーツや靴を新調しデートに臨むと大成功、ソンチルはグンニムに特別な思いを持ち始める。

地域の再開発計画に一人反対するソンチルの機嫌を損ねないよう、街の住民も積極的にソンチルを応援する。偏屈ジジイのソンチルに対し過剰に世話を焼く若社長や飲食店・服飾店の経営者、距離を置こうとするグンニムの娘など、映像はソンチルを巡る人間関係にわずかな違和感を抱かせる。その後グンニムが体調を崩し、さらにグンニムとの約束をすっぽかしたソンチルはひとりで出かけてしまう。このあたり、“老いらくの恋”と行方を見守る隣人たちの物語と見せかけて、巧妙に伏線を張るプロットが冴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて健忘の激しさを自覚したソンチルはアルツハイマー症の検査を受ける。覚えなければならないことを覚えられない、そして忘れたことを忘れてしまっている。自我が崩壊していく恐怖、ソンチルが攻撃的な性格になったのも自分の衰えを他人に悟られたくなかったからなのだろう。彼の気持ちを知り尽くした家族の心遣いと友人たちの思いやりが胸を打つ。

オススメ度 ★★★

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過ぐる日のやまねこ

otello2015-08-26

過ぐる日のやまねこ

監督 鶴岡慧子
出演 木下美咲/泉澤祐希/植木祥平/中川真桜/田中要次
ナンバー 194
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

突然何もかも投げ出して故郷に戻ってきた彼女。目的があるわけでもなく、縁者知人もいない。それでも、住んでいた家をもう一度見てみようと思いつく。兄同様に慕っていた人を亡くした少年は、その事実が受け入れられずに彼との会話を反芻している。そんな男女が出会ったとき、ふたりはお互いが心の欠片を埋める存在であると直感する。濃厚な“死”の気配、だがそれは懐かしい香りが漂うあたたかい思い出。物語は、喪失感から立ち直れない高校生と子供の頃に父を亡くした若い女が交流するうちに、過去に囚われて立ち止まるのではなく、未来に向けて踏み出す大切さを学ぶ過程を描く。「忘れることを怖がったらダメだ」という言葉は、死者よりも生きている者を優先してこそ希望は生まれると訴える。

飲食店をクビになった時子は当てもなく長距離バスに乗り、8歳まで暮らしていた山奥の村にたどり着く。彼女を覚えている者はすでにおらず、廃屋となった家に帰ると、学校をさぼった陽平が無断でアトリエ代わりに使っていた。

この廃屋は、時子にとっては事故死した父と一緒に過ごした家であり、陽平にとっても親しかった人と楽しい時間を共有した秘密の場所。ふたりの決定的な記憶が宿っている。陽平が時子に服や食べ物を与えるうちになんとなく打ち解けあうと、彼らは森から聞こえてくる声に耳を澄ますように神社の境内に佇み、狭い沢で戯れる。本来生命の息吹を感じさせるべき緑の濃さが、ここでは異界への入り口のごとき神秘性を帯びている。一旦足を踏み入れてしまったふたりは、その奥を覗こうとする。恐怖や不安とは違う、しっとりと落ち着いた映像からは、どこか気持ちを落ち着かせる死の誘惑が濃密に漂っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて陽平の異変に気付いた彼の父が廃屋に火をつけ、ふたりは現実に引き戻される。人生は続く、そして命は何よりも尊い、少しだけ“生”に前向きになった時子と陽平の表情が印象的だった。

オススメ度 ★★*

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カンフー・ジャングル

otello2015-08-25

カンフー・ジャングル 一個人的武林

監督 テディ・チャン
出演 ドニー・イェン/ワン・バオチャン/チャーリー・ヤン/ミシェル・バイ/アレックス・フォン/ルイス・ファン/シー・シンユー
ナンバー 186
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

その流派の達人たちが次々と血祭りに上げられていく。彼らが極めた拳法で。誰の仕業なのか、何が目的なのか、物語は武術家連続殺人事件を追う刑事に協力を申し出た武術家が壮絶な闘いに巻き込まれていく姿を描く。驚異的な修業を自らに課して身体障害を克服した男が欲するのは“最強”の称号、最愛の妻を亡くして正気を失った彼はただただ己の腕前を誇示せんと命を賭けた真剣勝負に挑む。神出鬼没、警察の裏をかき武装警官を手玉に取る、ワン・バオチャン扮する狂気の格闘家の圧倒的なスピードとパワー、技のキレはまさにカンフー映画の原点だ。格闘シーンをいかにエキサイティングに表現するかにこだわり抜いたカメラワークと鋭角的なショット、人間の身体能力の限界に挑戦するアクションの波状攻撃に、思わず目が釘付けになった。

他流試合で相手を絶命させ服役中のハーハウは、武術家惨殺をニュースで知り、担当のロク刑事を呼び出す。容疑者の目星をつけたハーハウは警官隊と共に隠れ家で待ち伏せするが、逃がしてしまう。

「カンフーは殺人技」と言う犯人のフォンは強い悲しみと憎しみを抱いている。それは妻を無為に死なせてしまった自分と、何もしてくれなかった世間への怒りに変わる。動機としては歪んでいるのだが、もはや彼には些事はどうでもいい、あらゆる格闘家の中でNO1となるのが妻の無念を晴らすと妄信している。そんなフォンに対してはハーハウも拳で応えるしかない。フォンの行動パターンを知るハーハウは警察を振り切って彼との一騎打ちに臨む。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そしてついに相対する2人、ここでもトラックや自動車が行き交うハイウェイを決着の場に選ぶ。なぜわざわざこんなところで拳を交えるのか。答えは観客が見たことのないようなアクションを再現するため。躍動感あふれるワクワクを満載した映像を見せるというテーマの前では設定の矛盾など気にしない、いかにも香港映画のスピリッツに満ちた作品だった。

オススメ度 ★★★

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ナイトクローラー

otello2015-08-24

ナイトクローラー NIGHTCRAWLER

監督 ダン・ギルロイ
出演 ジェイク・ギレンホール/レネ・ルッソ/ビル・パクストン/リズ・アーメッド
ナンバー 197
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

あくなき向上心を持ちながら社会からそっぽを向かれ、孤独の中で独自の人生哲学を磨き上げてきた男は、ついに天職と出会う。最初は報酬目当てだった。だが、スリリングな現場にアドレナリンが噴出する高揚感を覚え、自分の成果が世の中を騒がしている優越感に浸るうちに、中毒にも似た快感を得ようと仕事にのめり込んでいく。物語は事件・事故をいち早くリポートしTV局に売り込む映像カメラマンの歪んだ日常を描く。視聴率獲得により刺激的なヴィジュアルを欲するディレクターの要求に応えるために、時に法の一線を越え、事実を捻じ曲げ、人の死すらカネに換えていく主人公を、ほおがこけ目玉をむき出しにしたジェイク・ギレンホールが怪演。良心やモラルの欠如の果てにつかんだ“成功”が放つ強烈な腐臭をスクリーンから漂わせていた。

求職中のルイスは交通事故現場にいたカメラマンからTV局が映像を買ってくれると聞き、ビデオカメラと無線傍受器を手に入れ開業する。カージャックの衝撃場面をニュースディレクターのニーナに持ち込むと思いがけない身入りとなる。

規制線や制止を振り切ってカメラを向けると同業者より過激な画が撮れる。それ以上に、警察に先んずれば圧倒的に出し抜いた報道ができる。助手を雇い高速車に乗り換えたルイスは、人々が寝静まった真夜中のLAでネタを追う。昼間の常識とはまったく別のルールで動く深夜稼業の実体がリアルだ。なぜか時間の経つのが早いと感じるが、それは不要な感覚が闇に遮断され目の前の出来事に集中できるから。そんな夜の空気が濃密に再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて強盗殺人事件の犯人と被害者を独占スクープしたルイスは、情報を小出しにして更なる特ダネを狙う。今やニーナも警察も助手も交渉相手、ルイスは需要と供給の関係を冷静に見極め己に高値を付ける戦略を立てる。“戦争の真実を世界に伝える”戦場ジャーナリストも根は同じ、安っぽい正義感など取材現場には通用しないことをこの作品は教えてくれる。

オススメ度 ★★★★

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