こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シンクロ・ダンディーズ! Swimming with Men

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退屈でも安定した仕事、会社帰りの水泳で健康状態は問題ない。だが、このままでいいのかという思いは募るばかり。そんな時、妻は一足先に新たな人生に踏み出していった。物語は、中年クライシスに陥った男がシンクロナイズドスイミングを通じて自らの生き方を見つめ直していく過程を描く。ずっと不満をため込んだような顔だったのだろう、声をかけてきた男たちに心は見透かされている。それは彼らもまた同じような鬱屈を抱えていたから。何年かぶりに自分の居場所を見つけた主人公は、共に泳ぎプールで喜怒哀楽を表現する楽しさにのめり込んでいく。そして目指した大きな大会。競技人口が少ないからこそ注目されるのでかえって下手な演技は見せられないと、彼らを徹底的にシゴキあげる女性コーチが魅力的だ。

大企業の会計士・エリックは、妻が市会議員に当選したことに引け目を感じ家では居心地が悪い。ある日、常連の市民プールで男ばかりのシンクロチームに誘われ、入会する。

職業柄なんでも理論的に考えるエリック。シンクロのフォーメーションに数学的思考を持ち込み、停滞していたチームに活気をもたらす。子供相手のパフォーマンスで意識が高まった彼らは、元シンクロ選手・スーザンの指導のもと2か月後に迫った世界選手権に次の目標を定める。週一だった練習が一日4時間週六になり、プライベートに立ち入らないルールのメンバー同士も、家族の悩みを打ち明けたりするようになる。そのあたり、人と人の絆は共有した時間の長さに比例して強くなると教えてくれる。最初は「女のスポーツ」と活動を秘密にしていた彼らがシンクロを誇りに思うようになる。その背中はプライドを持つ大切さを訴えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

お約束通り世界選手権直前になってトラブルがおきるが、なんとか回避して本番に臨むエリックたち。女子のアーティスティックスイミングとは比べ物にならないレベルだが、それでも現状を変えようと懸命に水をかく姿は美しかった。あらためて「ウォーターボーイズ」の先見性を確認した。

監督  オリバー・パーカー
出演  ロブ・ブライドン/ルパート・グレイブス/ジム・カーター/ダニエル・メイズ/トーマス・ターグーズ/シャーロット・ライリー/ジェーン・ホロックス
ナンバー  176
オススメ度  ★★★


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http://synchro-dandies.jp/

カーマイン・ストリート・ギター CARMINE STREET GUITARS

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古い街並みに馴染んだありふれた外観のギターショップ。店主は手作りにこだわり、気軽に立ち寄る客たちと音楽談議に花を咲かせる。カメラは廃材からギターを作る男の古風なスタイルの生き方に迫る。材料となる木材は19世紀に建築された建物の解体現場で調達されたものばかり。100年以上もの年月が木を乾燥させギターの音質に奥行きを持たせるという。柱や梁に使われた木材には時に傷や焦げ跡が残っていたりするが、そのまま残しておくと不思議な風合いがでる。そして、曽祖父から受け継いだ工具でギターの形に削り出し、細部を仕上げていく。もはや芸術的ともいえる職人技、ハイテクに一切頼らず1本ずつ手掛けたギターの音色は、張り詰めた高音から濁った低音まで独特のまろやかさを保っていた。

NY・グリニッジビレッジでエレキギター工房を営むリックは、昔ながらの工程でギターを制作販売修理する日々を送っている。顧客には有名なギタリストが多数いて、ふらりと店を訪ねてくる。

雑然と散らかった工房で黙々と手を動かすリック。その横ではパンク風の外見をした弟子のシンディがギター本体に文字やイラストを電熱線で焼き付けている。まだ25歳なのに、大金を稼ぐよりも地道に手に職をつけ、自分の仕事が形になって残る充実感にシンディは満足している。そんな彼女が自作のギター写真をインスタグラムにアップし、“少しはテクノロジーに頼れば?” とリックに勧めるシーンは、“変わらない結果を残すためには変わり続ける” 必要があると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

不動産業者が訪れて店の広さを尋ねられるが、リックは木で鼻をくくったような対応で追い返す。だがそれは、高齢のリックが亡くなった後の後継者問題を考えさせられる。子供はいない、店はシンディが継ぐのか。それとも、シンディは別の場所で独立して店を開くのか。いずれにせよ、リックの店の周辺では再開発計画が持ち上がっているのだろう。近い将来、リックの店から出た廃材でシンディがギターを作る日が来る予感を覚えた。

監督  ロン・マン
出演  リック・ケリー/シンディ・ヒュレッジ/ドロシー・ケリー/ジム・ジャームッシュ/ニルス・クライン
ナンバー  193
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://www.bitters.co.jp/carminestreetguitars/

カーライル ニューヨークが恋したホテル Always at The Carlyle

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ダイアナ妃とマイケル・ジャクソンスティーブ・ジョブズ。世界に多大な影響をもたらしたスーパーセレブが同じかごで顔を合わせた時があったとエレベーター係は語る。3人とももうこの世を去り確かめる術はない。それでも、そういう出来事があっても不自然ではないと納得させる空気が充満している。カメラはマンハッタン中心部に立つ超高級ホテルの魅力を紐解いていく。ジョン・F・ケネディの来訪を覚えている従業員がいる。全盛期のジャック・ニコルソンポール・ニューマンの記憶をよみがえらせる従業員もいる。つい最近も英国王子夫妻が滞在した。何が彼らをここに引き寄せるのか。なぜ従業員たちはここでずっと働き続けたいと思うのか。伝統と格式を守るためには、従業員と客の信頼関係が最も大切とこの作品は訴える。

NYのカーライルホテル。尖塔のような細長い建物は、建設された当時は周囲を睥睨しセントラルパークを一望できた。今ではその地味な外観がむしろ年季の入った風合いを帯びている。

ジョージ・クルーニージェフ・ゴールドブラムウェス・アンダーソンアンジェリカ・ヒューストンは、カーライルに宿泊するとはどういうことなのかを滔々と話す。それは、自分がカーライルを選んだのではなく、カーライルに自分が選ばれた名誉に対する誇り。一泊4000~1万ドル払える経済力だけではない、客がどれほど社会的貢献をしてきたも問われているのだろう。ただ、“カーライルに泊ると自慢になる” とコメントする男がいたが、一方でそのあたりにスノッブさも感じてしまうのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

客室清掃係やコンシェルジュ、予約係やウエイターなど直接客と接触する従業員は、秘密といいつつ “時効” になった有名人のエピソードは嬉々として口にする。スターと言葉を交わしたら誰かに話したくて仕方ない、それなりに従業員は訓練されているはずだが、やっぱり彼らも普通の人間だった。映像からこのホテルの品格はよく理解できたが、あまりにも敷居が高く泊まりたいと思えなかった。。。

監督  マシュー・ミーレー
出演  ジョージ・クルーニー/ウェス・アンダーソン/ソフィア・コッポラ/トミー・リー・ジョーンズ/ジェフ・ゴールドブラム/ナオミ・キャンベル/アンジェリカ・ヒューストン/レニー・クラビッツ
ナンバー  192
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://thecarlyle-movie.com/

シークレット・スーパースター

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妻は奴隷、娘は所有物。男は家族の女たちに高圧的な態度で接し、一言の反論も許さない。物語はそんな家庭で暮らす少女がスターになる夢を叶えるまでを描く。自由にならない人生を嘆いた歌はネットで注目を浴び、母を想う歌は一気にバズる。だが、父にばれるのを恐れるあまり動画では顔を隠している。さらに学業成績の低下からギターやパソコンを奪われてしまう。電気もなく電波も届かないような非文明的なへき地ならばともかく、一応TVもPCもスマホも空港ある近代的な都市で、いまだこんな前近代的な男が存在するのが信じられない。気に入らないことがあると怒鳴り散らし暴力に訴えるのも平気で無学な妻を罵る男の姿は、インド社会の旧弊として戯画化されているのだろうか。日本なら「こんな奴はおらへんやろ」といい切れるのだが……。

ギターを爪弾きながら歌うのが好きなインシアはオーディション番組出場を計画するが、父に言い出せない。そこで、母にもらったノートPCで動画を公開すると世界中からコメントが寄せられる。

インシアに興味を持った落ち目の音楽家シャクティが新曲のボーカルにインシアを抜擢、彼女をムンバイのスタジオに招く。シャクティはインシアの起用で話題を作り復活を狙っている。インシアはこのチャンスに運命を変えたいと思っている。やがて彼女の熱い思いはシャクティに通じ、母親がきちんと離婚できるように弁護士まで紹介してもらう。このあたり、障害が多く苦難は続いても基本的に「求めよ、さらば与えられん」の精神が作品の根底に流れ、あきらめずに前向きな生き方を貫けばおのずと道は開けると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

もはや先進国では見られない古臭い設定だが、それでも一切の衒いなくインシアのサクセスストーリーに寄り添う一貫性は、映画を純粋な娯楽と捉えるボリウッドならではの展開。インシアが己の成功を喜ぶよりも産み育ててくれた母への感謝を語るシーンは、フェミニズムへの理解が遅れている実態を象徴していた。そのあたりもう少し知りたい。

監督  アドベイト・チャンダン
出演  ザイラー・ワシーム/メヘル・ビジュ母/ラージ・アルジュン/アーミル・カーン
ナンバー  191
オススメ度  ★★*


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http://secret-superstar.com/

ライオン・キング THE LION KING

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大地に生える草木の枝葉から動物たちの毛並みの一本一本まで、精細なディテールはまるで実写映画のごときハイパーリアル。だが、動物たちが状況に合わせて演技をしセリフを口にする設定はソフトバンクのお父さん犬以上の衝撃だ。アニメや、俳優が演じる舞台なら違和感がなかったが、本物の動物にしか見えないキャラクターが音楽に乗って歌い踊る世界観になじむまで少し時間がかかった。物語は陰謀によって追放された王子の成長を描く。父は強さとやさしさを兼ね備え百獣に君臨していが、身内には非情になれない。ねじれた野心を持つ叔父はその甘さに付け込んだ。幼い主人公は放浪・放蕩生活を経て、やがて自らに流れる王の血に目覚める。もはや語りつくされた展開ながら、精緻に再現された映像には目を見張る。

ライオンが支配する王国の継嗣・シンバは、叔父・スカーの謀略にはまり父王を失う。スカーはハイエナたちを従えて新王に即位、父の死の責任を取らされたシンバは王国を去る。

行き倒れになっていたところを雑食動物コンビに拾われジャングルで暮らすようになったシンバ。動物ではなく昆虫を食べて大きくなったシンバはすっかり能天気になって “人生” を楽しみ、王国での黒歴史は封印している。しかし過去は彼を放っておいてはくれず、王国の危機が伝えられる。その過程でハイエナが醜く狡猾で貪欲な獣と描写されているが、生態をよく知らない人間が抱くイメージを無理強いされているようでかわいそうだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

特別な運命の星の下に生まれついた者は大衆に対して義務を負い、自己犠牲を求められる。米国のヒーローものにありがちな価値観はこの作品でも健在。傷ついてもあきらめずに戦い続け、最後には勝利を収める姿がいまだに理想とされれているのだろう。確かにかっこいい。男らしい。でも21世紀ではそんな思想は押しつけがましく感じられるのだ。世界を救うために個人が身を捧げる必要はないという「天気の子」的発想のほうが、やっぱり今の時代にはマッチしている。

監督  ジョン・ファヴロー
出演  ドナルド・グローヴァー/セス・ローゲン/キウェテル・イジョフォー/アルフレ・ウッダード/ビリー・アイクナー/ジョン・オリヴァー/ビヨンセ・ノウルズ=カーター/ジェームズ・アール・ジョーンズ
ナンバー  189
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://www.disney.co.jp/movie/lionking2019.html

マイ・エンジェル GUEULE D'ANGE

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結婚式のパーティで泥酔して行きずりの男に絡む子連れ新婦。その痴態を目撃した小さな娘は、心に大きな傷を負う。それでもたったひとのママ、ほとんど面倒は見てはくれないけれどやっぱり一緒にいたい。物語は、ふしだらなシングルマザーと暮らす少女の成長を描く。酒癖・男癖は最低、目の前に快楽が転がっていると後先考えず我を失う。そのたびに少女は裏切られるけれど、いつかは自分の方も見てくれると期待してしまう。だが、孤独な男との出会いが、少女を少しずつ変えていく。そして、その場しのぎの言葉ばかりの母よりも、己の気持ちに共感してくれる男の方を信頼するようになっていく。無責任で自己チュー、機嫌のいい時だけ娘をかわいがる母親に不快感が膨らむのに比例して、母を待ち続ける少女の姿が切なさを増していく。

生活力ゼロのマルレーヌに育てられているエリーは、ぬいぐるみ相手に寂しさを紛らわせる日々。夏休みが終わり新学期が始まると、マルレーヌはエリーを置いて男と家出する。

マルレーヌと行く約束をしていた遊園地にひとり出向くエリー。そこで知り合ったフリオは家族との葛藤を抱えていて、エリーの事情を理解しようとする。同時にエリーは酒を口にするようになり、学校でいじめにあったり売春まがいの行為にまで手を染める。エリーはマルレーヌほど弱くはないがまだ8歳の子供、大人からあまり構われるのは嫌だけれどちょっとは関心を持ってほしいと感じている。でもどうしたらいいのかわからない。そのあたりの微妙な胸中を、エリーを演じたエイリーヌ・アクソイ=エテックスが繊細な表情の変化で表現する。運命を背負う幼い背中を支えてあげたくなった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

すっかりフリオになついたエリーだが、友達にはマルレーヌは死んだと嘘をつき学校では孤立を深めている。そんな時、男に捨てられたマルレーヌが帰ってくるが、エリーはもはや迷惑顔。本当に大切に思ってくれているのは誰かを命がけで知ろうとするシーンはわずかな救いだった。愛されない子供はいないのだ。

監督  ヴァネッサ・フィロ
出演  マリオン・コティヤール/エイリーヌ・アクソイ=エテックス/アルバン・ルノワール
ナンバー  190
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://my-angel-movie.com/

HiGH&LOW THE WORST

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腕っぷしが強い、それが男の価値を測る唯一の尺度。全日・定時共に不品行生徒が跋扈する高校に戻ってきた少年は、身体能力の高さでたちまち頭角を現していく。物語は、血の気は多いが筋を通す高校生たちが違法ドラッグ組織と戦う姿を描く。とりあえずどちらが強いか白黒つけたい。でも本気で殴り合った後は心から相手を理解したつもりになっている。あまりにも単細胞だけれど、一度契った友情は決して裏切らない。そんな高校生たちが毎日のように暴れまわる様子は、運動着代わりに着崩した学ランや派手なシャツを着ているだけで体育系の部活のよう。普段は個人プレーに走りがちなのに、いざ集団同士のバトルになると仲間との協力は惜しまない。もはやケンカというジャンルのスポーツを見ているような団体戦はさまざまなカメラワークが楽しめる。

鬼邪高に復帰した楓士雄は小グループが割拠する全日制をまとめ、定時制の番長・村山に挑戦状を叩きつける。だが校内で奇妙なドラッグが出回り、抗争は後回しにされる。

密売ルートを調べるうちに楓士雄は幼馴染の新太の関連を疑い始める。同時に隣町の暴力校・鳳仙でもドラッグがらみのイザコザが起こる。そこに起きた暴行事件。お互いに相手校の仕業と思い込み、両校は河原で激突する。そのあたり、卑怯なことは嫌い、深く考えるのも苦手な不良高校生たちが彼らなりの美学を貫く。ドロドロとした感情のもつれよりも単純明快な彼らのメンタリティがかえってすがすがしかった。志尊淳扮する鳳仙の番長・上田がひとりカッコよすぎて浮いていたが。。。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

真相を突き止めた村山のおかげで両校は休戦、今度は合同でドラッグ組織のアジトにカチコミをかける。100人は超すだろう、バットや鉄パイプ、はしご、石などを手にしながら繰り広げられる壮大な乱闘は、ただ敵をブチのめすだけでなく次から次へと新たな戦法が繰り出される。SWORD地区でにらみを利かせていた頃は一癖あった村上が、ちょっとコミカルなキャラに変身しているあたりも楽しめた。

監督  久保茂昭
出演  川村壱馬/吉野北人/前田公輝/轟洋介/山田裕貴/志尊淳
ナンバー  170
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://high-low.jp/