こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マニカルニカ ジャーンシーの女王

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家畜に飛びかかるトラを矢で射抜き、3人の剣士を手玉に取り、暴れ馬を乗りこなす。領民への慈愛は深く、力ずくの無礼者を追い返す胆力も持っている。あらゆる知識に秀で兵法や交渉にも優れた手腕を発揮する。物語は、美貌とカリスマ性で反乱軍を率いた伝説の女王の半生を描く。小さな藩国ごとに独立性を保ち統一感のなかった19世紀インド、植民地支配を強めようとする英国との関係は一触即発。さらなる圧政に耐えかねた民衆はついに蜂起する。兵士も武器も足りない中でも彼女は己を鼓舞し、民衆に愛国心を植え付け、女にも剣を握らせる。スクリーンを埋め尽くす大軍の先頭に立って突撃する姿は、力強さ以上に美しかった。そんなヒロインが我が子の死で見せる母の一面は、切なく悲しい一方で、彼女もまた感情豊かな人間であると訴える。

神の祝福の下に生まれたマニカルニカは隣国の藩王と結婚、王妃となってラクシュミと名乗る。さっそく英国軍司令官の高圧的な態度に反発、インドの解放と民衆に自由をもたらす決心をする。

王族たちも官僚たちも、男たちは長年の命令される感覚に慣れてしまっていて、乱暴狼藉を働かれても英国軍を怒らせないようにへりくだっている。開明的な宰相に育てられたラクシュミは負け犬根性に耐えられず改革を起こそうとする。このあたり、韓国製の抗日映画と似たメンタリティで、英国人はひたすら無慈悲で強欲な悪党扱い。それでも、かなりシリアスな展開で血しぶきが飛び散るショットなどがあるにもかかわらず、歌で喜怒哀楽を語りダンスで高揚や興奮を表現するなどインド映画の王道は外していないところにサービス精神を感じる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、藩王の死で国のリーダーとなったラクシュミはインド全土に広がった反英武装闘争に身を投じるが、鉄壁の城塞で英国軍主力を迎え撃ち大いに苦しめる。ただ、戦闘シーンが大掛かりな割には見せ方のアイデアに乏しく、騎馬軍団に向けての砲撃ばかり。騎馬兵は吹き飛ばされて絶命するのに、なぜか馬は無傷なのも気になった。

監督  ラーダ・クリシュナ・ジャガルラームディ
出演  カンガナー・ラーナーウト/ジーシュ・セーングプタ/ダニー・デンゾンパ/スレーシュ・オベロイ/アトゥル・クルカルニー
ナンバー  2
オススメ度  ★★*


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http://manikarnika-movie.com/

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋

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初恋の女性は今や世界を動かすほどのスーパーセレブ。でも、自分を覚えていてくれた。物語は、失業中の元新聞記者が幼馴染だった政治家のブレーンに加わり、彼女と再び恋に落ちる姿を描く。ブレずに理想を追求する姿勢は昔と変わっていない。彼女の背中を見て学んだ生き方は彼の中で今も色褪せていない。そんなふたりはいつしか己に似た相手に惹かれ、己にないものを補う間になっていく。だが、政治の荒波にもまれてきた彼女は対話・説得して着地点を見つける術を身につけているのに、情熱が先走る彼は不器用なまでに正義にこだわり損ばかりしている。それでも行動を共にするうちに記憶に触れ、お互いがなくてはならない存在に思えてくる。美人な上に優秀すぎる女と冴えない男。身分が違いすぎるからこそのすれ違いがコミカルに再現されていた。

突撃ルポが得意のフレッドはパーティで国務長官のシャーロットと再会、スピーチライターに抜擢される。環境問題で主要各国を巡る旅に同行するうちに、ふたりは親密さを増していく。

時に辛辣に批判し時にウイットに富んだジョークを交えたフレッドの原稿は、シャーロットの琴線に触れ有権者の評判も上々。敵対国に対して飴と鞭を使い分けるシャーロットの交渉術は大人の品格を漂わせる。一方のフレッドは正しいと信じたことは一歩も引かず妥協を嫌うなど、子供じみたところがある。シャーロットはフレッドに信念を曲げない純粋さを見出し、フレッドはシャーロットから我を抑えwin-win関係の重要さを学ぶ。双方が影響を受け変わっていく過程は、同じ夢を追う男女には時間と共にクラスを越えた信頼の絆が生まれると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ふたりはベッドインする仲になるが、大統領選出馬を控えたシャーロットはキャリアとフレッドの二者択一を求められる。女性の社会進出でこんなシチュエーションはもう珍しくなくなってきているのだろう。ただ、フレッドの幼稚なメンタリティには少し鼻白んだ。あと、大統領の夫を “First Mister” と呼ぶのはポピュラーなのか?

監督  ジョナサン・レビン
出演  シャーリーズ・セロン/セス・ローゲン/オシェア・ジャクソン・Jr./アンディ・サーキス/ジューン・ダイアン・ラファエル/ボブ・オデンカーク/アレクサンダー・スカルスガルド/ラビ・パテル
ナンバー  1
オススメ度  ★★*


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http://longshot-movie.jp/

一度死んでみた

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元素周期表が子守歌、白雪姫のキスは人工呼吸、食器は実験器具etc. 何事も科学的に考える薬品メーカー社長の父に対して強烈な嫌悪感を抱く女子大生は「死んでくれ~」と絶唱する。物語は、父の “遺体” を取り戻そうとするヒロインが会社乗っ取りを目論む勢力と闘う過程を描く。遅れてきた反抗期、すべてが気に食わなかった父だったけれど、死んでしまったと聞くとなぜもっと話しておかなかったのかと後悔する。一方で父は、姿を見せられても言葉はかけられない。最初は裏切者をあぶりだすための罠だった。だがはめられたのは自分。父は思いを娘に伝えるために、娘は父の願いを叶えるためにできることをするしかない。堤真一のとぼけた味わいと広瀬すずのとんがった感性が激突するドタバタ劇は最後までテンションマックス、笑いがなかった。

売れないデスメタルバンドのボーカル・七瀬は、父・計が急死したと聞かされる。実は、計は2日間だけ仮死状態になる薬を飲んで社内にいる造反者を特定しようとしていた。

計の秘書・渡部は若返る秘薬のレシピ盗み出し、計を火葬にしようとしている。計の側近・松岡は渡部の陰謀に気づき七瀬に報告、計が生き返るまで時間稼ぎをしなければならない。反発し合っていた2人は協力するが、存在感のない松岡と世間知らずの七瀬ではなかなか太刀打ちできない。それでも、計の “遺体” に寄り添ってクリスマスイブを迎えるうちに、計がいかに愛情深い父親だったかを実感する七瀬。企業買収の方法や葬儀の進め方など細部はかなりいい加減だが、その設定のユルさがかえって映像に余裕を与え、疾走感を加速させていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

火葬を早めようと “遺体” を奪いに来た渡部一味に対し、ホテルで告別式を開こうとする七瀬。しかも告別式は七瀬のバンドの解散ライブになっている。本当に嫌いなわけではない。ずっと見守ってくれているのも知っている。いなくなって初めて親のありがたさを理解した。ただ、その表現の仕方が気に食わないだけ。人生の目標は思わぬタイミングで見つかると七瀬の決意は教えてくれる。

監督  浜崎慎治
出演  広瀬すず/吉沢亮/堤真一/リリー・フランキー/小澤征悦/嶋田久作/木村多江/松田翔太/妻夫木聡
ナンバー  292
オススメ度  ★★★★


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https://movies.shochiku.co.jp/ichidoshindemita/

アイリッシュマン

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隙を見せた相手の顔に2発。すれ違いざまに後頭部に3発。邪魔者に銃弾をぶち込み確実にとどめを刺す。壁は血で染まり、やがて家にペンキを塗る男と呼ばれるようになる。物語は数十年にわたって暗躍した殺し屋の半生を追う。荷物を横流しするケチなトラック運転手だった。偶然の出会いが人生を変えた。戦場で人殺しには慣れている。それでも家族を愛する気持ちは人一倍強く、妻子にはやさしい。そんな男が命じられるままに暗殺を重ねていく姿は、一度踏み入れたギャングの世界からは死ぬまで足を洗えないと訴える。彼が娘の目の前で商店主をぶちのめして以後、一生彼女と溝が埋まらない展開は、普通の人々の暴力に対する嫌悪感を象徴する。父親の正体を知ってしまった彼女の苦悩がリアルに再現されていた。

エンストを直してもらったのきっかけにラッセルの知己を得たフランクは彼の片腕となる。その後、全米トラック運転手組合を仕切り政治にも巨大な影響力を持つジミーの用心棒兼お目付け役に任じられる。

普段は世話好きで人の好さそうなラッセルだが、嘘やごまかしは許さない。勝手に請け負った仕事がトラブルになりかけた時も助けてもらい、フランクはラッセルに対する忠誠心を固めていく。欲を出さないが命令には文句を言わずきちんとやりとげる。ジミーの下で働いるときも、フランクはラッセルの言葉が最重要。ラッセルを演じたジョー・ペシの経験豊富かつ圧倒的な表現力が、裏社会を生き抜いてきた男の哀しみを体現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

政治家との暗闘、服役、組合への復帰など、精力的に動き回るジミーにフランクは常に付き添う。だが、己を曲げない傲慢な性格ゆえ、ジミーは少しずつラッセルにとって目の上の瘤になっていく。家族より長い時間を共に過ごしたジミーに、フランクは自身の表彰式のプレゼンターを頼んだりもするが、もうラッセルの決意は固まっている。ジミーにもためらいなく引き金を引くフランクに、リーダーに権限が集中している組織で生き残るための処世術が凝縮されていた。

監督  マーティン・スコセッシ
出演  ロバート・デ・ニーロ/アル・パチーノ/レイ・ロマーノ/ジョー・ペシ/アンナ・パキン/ハーヴェイ・カイテル/ゲイリー・バサラバ
ナンバー  306
オススメ度  ★★★*


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https://www.netflix.com/jp/title/80175798

冬時間のパリ 

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ある者は押し寄せるデジタル化の波にのみこまれまいと抗っている。ある者は積極的に変化を受け入れ勇躍のチャンスにしようとする。フランスの出版業界が抱えている問題は日本とまったく同じ。“変わらぬためには変わるしかない” という言葉がリアルな重さを伴っていた。物語は、老舗出版社の敏腕編集者を軸に、彼にかかわった人々の恋愛模様をスケッチする。いまや紙に印刷されきちんと装幀された本は売り上げが激減し、安価な電子書籍でさえも行く先は不透明。デジタル化が加速される未来が来るのは間違いない。わずかに残された書籍の牙城を守ろうとする編集者は、愛人でもあるデジタル推進者と激しい議論を重ねる。他方、私小説的作品で炎上した中年作家は、文章の質にこだわっても売り方には無関心。莫大な量のセリフがパリに生きる知識人の “いま” を活写していた。

新作の売り込みに来たレオノールを軽くあしらった担当編集者のアランは、部下のロールと浮気中。一方のレオノールは前作を暴露小説と読者から批判され、必死で弁明する。

アランが勤める会社は身売りの話が持ち上がるほど売れ行きは落ち込んでいるが、アランにも焦燥感はあり打開策を模索中。情報がタダで手に入る時代、消費者は本の値段が高いと感じ、半額で手に入る電子版も不興。ところが、やっぱり紙の本のほうが好きな読者もいて書籍販売額微増のデータもある。いずれにせよ出版業界が初めて直面する未曾有の危機。それでも彼らはオンとオフはきっちり分け、不倫相手との時間はきちんと確保する。このあたり、人生で最優先させるべきものは決して仕事ではないところが粋だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

レオノールの愛人はアランの妻・セレナ。彼らは6年にわたる仲、だがアランは感づいていない。なのに、ふたりは暴露小説がきっかけで破局、結局アランもレオノールも妻の元に戻る。2組の夫婦はともにバーベキューを囲んで談笑するが、それぞれの秘密に気づいていても大人の対応をする。いかにもフランス人っぽいカップルの形が印象的だった。

監督  オリビエ・アサイヤス
出演  ギョーム・カネ/ジュリエット・ビノシュ/バンサン・マケーニュ/ノラ・ハムザウィ/クリスタ・テレ/パスカル・グレゴリー
ナンバー  305
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://www.transformer.co.jp/m/Fuyujikan_Paris/

THE UPSIDE 最強のふたり

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莫大な富を手に入れたのに身体の自由を失った老人と、ツキに見放された暮らしに自信も自尊心も無くしている男。まったく接点のない二つの人生が出会ったとき、2人の中で自分にはなかったものに対する欲求が芽生え始める。物語は、要介護生活を送る大富豪と彼の介助人となった失業中の男の友情を描く。マナーをわきまえず言葉遣いも下品な男を、上流階級の人々は誰しもが奇異な目で見る。ところが大富豪は彼の飾らない人柄を気に入って雇う。格差社会の頂点と下層を代表するような2人、お互いにその種の人々とは口をきいたことはない。だが日常を共にするうちに、富豪は他人の気持ちへの忖度を、男は報酬をもらって仕事をする責任感を学んでいく。パラグライダーで舞うシーンは、大空に向かって開かれている想像力を象徴していた。

超高級アパートのペントハウスに住むフィリップのもとで住み込み介助人の職を得たデルは、高級車コレクションに目を丸くする。さっそくお出かけにフェラーリのハンドルを握る。

ご機嫌を損ねないように立ち回る周囲の男女とは違い、デルはフィリップ相手でもずけずけと本音を言う。そんなデルにフィリップは新鮮さを覚え、今までの思慮深い生き方ではなく思うままに冒険するときめきに目覚める。秘書のイヴォンヌは顔をしかめるがデルはお構いなし。導尿管をつけるときにデルが “ペニス” と言い淀むシーンに、彼にも卑語への慎みがあると示唆する。デルのような貧困層の人々も根は善良で、犯罪に走るのは育った環境が悪かっただけだと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、オペラ鑑賞中にべらべらしゃべったり、高級レストランで大声を出したりと、笑いを誘う前にこちらが眉を顰めるほどの空気の読めなさは不快。そのあと彼がオペラファンになり、夜の女王のアリアや「誰も寝てはならぬ」を鑑賞できるまでに成長する姿は楽しかったが。そして、ニコール・キッドマン扮するイヴォンヌの存在感が圧倒的で、主役の2人より彼女の美しさに注意が行ってしまった。

監督  ニール・バーガー
出演  ブライアン・クランストン/ケビン・ハート/ニコール・キッドマン/ゴルシフテ・ファラハニ
ナンバー  304
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://upside-movie.jp/

テッド・バンディ

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こぼれるような笑顔と相手の気持ちを先読みする濃やかな心遣い。明晰な頭脳はプロの法律家を前にしても一歩も退かず、信念を曲げることはない。物語は、20人以上の女性を殺害し死刑判決を受けた男の後半生を描く。状況証拠は明らかに彼の犯行を示唆しているが一切認めず無罪を主張する。憎むべきシリアルキラーなのに劇場型裁判のおかげで熱烈な支持者まで現れてくる。さらに減刑を得るために取引しようとする弁護士を解任する。豊富な法の知識を駆使して自分自身の弁護をするシーンは、検察・裁判官までもけむに巻く痛快さ。希代の大嘘つきなのか、まだ明かされていな真実はあるのか。「パピヨン」を愛読書に、希望を信じ恋人にも信じさせ、脱走を繰り返す姿は、法と国家にひとりで立ち向かうアンチヒーローの風格さえ漂っていた。

1970年代の米国、シングルマザーのリズをナンパしたテッドは、そのままリズ母娘と暮らし始める。ある日テッドはユタ州で逮捕され、女子大生誘拐事件の容疑者として新聞に顔写真を掲載される。

証拠不十分で釈放されたテッドだが、今度はコロラド州で逮捕され殺人罪で起訴される。事態は新たな展開を呼び、州をまたいだ連続殺人事件の様相を帯びてくる。そこでも無実を訴えるテッドは裁判中に逃亡する。決してあきらめない意志の固さと行動力、そして知能の高さは、もしかしたら冤罪なのかと思わせるほど。現代なら解離性同一性障害などと分類するのだろうが、この作品はそうしたアプローチはせず、あくまでテッドの言動を追う。彼が何を考えているのかは最後まで分からない。人格が入れ替わったがゆえに、第一人格である優しいイケメンのテッドは本当に殺人の記憶がないのかもしれない。そのあたり、解釈を見る者に委ねるスタンスが心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

元恋人のキャロルだけはテッドに寄り添い、公判にも通い続ける。一方のリズはテッドと距離を置き、新しい人生を歩んでいる。最期にテッドが明かした衝撃の事実。“HACKSAW” は、リズが己を納得させるため思いついた創作に見えてきた。

監督  ジョー・バーリンジャー
出演  ザック・エフロン/リリー・コリンズ/カヤ・スコデラーリオ/ジェフリー・ドノバン/アンジェラ・サラフィアン/ハーレイ・ジョエル・オスメント/ジョン・マルコビッチ
ナンバー  303
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://www.phantom-film.com/tedbundy/