こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クラウド アトラス

otello2013-02-07

クラウド アトラス CLOUD ATLAS

監督 ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー
出演 トム・ハンクス/ハル・ベリー/ジム・ブロードベント/ヒューゴ・ウィーヴィング/ジム・スタージェス/ペ・ドゥナ/ベン・ウィショー/ジェームズ・ダーシー/ジョウ・シュン/キース・デヴィッド/スーザン・サランドン/ヒュー・グラント
ナンバー 30
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

人はなぜ生まれてきたのか、何のために生きるのか。答えは、些細な出来事や意外な出会いに隠されている。チャンスとなる瞬間を見逃さず決断し、ためらう心を克服し、動きだした者だけが人生の真実をつかむのだ。そしてたとえ失敗に終わっても、覚醒した事実があれば、死の扉が開いてももう一度転生できるのではないかという希望を抱かせてくれる。映画は6つの時代を縦横にシンクロさせ、それぞれの主人公の行為を関連付けつつひとつにまとめる恐ろしく煩雑で緻密な編集作業を経て、壮大なスケールの一大叙事詩としてイマジネーション豊かな世界に導く。人間の愚かで哀しい一面から慈愛あふれた善意、記憶は継承されなくても、永遠不滅の魂を信じたくなった。

年老いたザックリーは子供たちの前で波乱に満ちた半生を語りはじめる。それは19世紀の南太平洋で奴隷を助けた弁護士の話に始まり、自身が食人族の襲撃から生きのび打ち勝つまでの想像を絶する物語だった。

抑圧からの解放、恐怖からの自由。時にそれらは命がけで手に入れなければならない。特に22世紀のネオ・ソウルで、人と同じ知能を持ったクローンが厳重に管理され消費されていく運命に抵抗を試みる姿は、自らの存在意義を問うているよう。目を見張るようなテクノロジーの中で従順に飼いならされ、ほとんど意思を持たないように訓練されたクローンたちのなかのひとりが知った愛や喜び、何よりもっと生きたいとの願いが息苦しくなるほど切ない。冷たく沈鬱な都市の風景に埋没しそうになりながらも、そこで覚えた怒りや悲しみが彼女もまた人間であるのを証明していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて6人の主人公たちは己の未来を決定づけ、行動に移す。その過程は、あらゆるものは時間や場所を経てもつながっていていることを明示し、因果関係をとらえた映像は、決して宗教的な意味ではないが、偏在する“神”の気配さえ感じさせる。見た者すべての現在と未来に何らかの影響を及ぼす、そんな予感がする作品だった。

オススメ度 ★★★★*

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