さよなら渓谷
監督 大森立嗣
出演 真木よう子/大西信満/鈴木杏/井浦新/新井浩文/木下ほうか/鶴田真由/大森南朋
ナンバー 154
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
世間の目を避けて暮らしている夫婦、お互いの存在が生きている証であるかの如く抱き合い、過去を再確認する。そんな彼らが、隣人の起こした騒動に巻き込まれた挙句、秘密の扉をこじ開けられる。物語は殺人事件に張り付く雑誌記者が夫婦の周辺を調べるうちに忌まわしい事実に遭遇し、取材者としての在り方を問われていく姿を描く。殺してやりたいほど恨んでいる男が、今は一番の理解者となっている。夫は無条件で女を受け入れて自分を罰し続ける。愛と憎しみが表裏一体となったふたりの生活は危ういバランスの上で綱渡りをしているようだ。
わが子を殺した母親が逮捕され、隣家に住む夫婦の夫・俊介との密通を自供したため、俊介も共犯容疑をかけられる。妻のかな子も警察に連絡し、俊介は逮捕される。この事件を取材中だった渡辺は、俊介が集団レイプ事件の加害者だったことを突き止める。
さらに、かな子からもタレこみがあったと教えられた俊介は、あっさり子殺し母の証言を認める。何が俊介から意思を奪ったのか、そして俊介にレイプされた被害女性はどこで何をしているのか。渡辺は俊介の調査を重ね、もっと不可解な現実を目の当たりにする。映画の前半はどういう展開になるのか全く先が読めない。ところが一見仲睦まじい俊介とかな子の関係が詳らかになるにつれ、厄介で繊細で矛盾に満ちたふたり心が本質を見せ始める。その過程は上質のミステリー以上にサスペンスにあふれていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
冒頭と前半に俊介とかな子が昼間からセックスをするシーンが挿入される。だが、それは愛を確かめたり快楽を求めたりするものではなく、相手の魂をむさぼる貪欲さが強調される。かな子の正体を見た後では、むしろ彼女が秀介をレイプしているようにさえ思えてくる。かな子の復讐、俊介の贖罪、少なくとも渡辺は不幸になろうと約束したというふたりを解放した。それだけでもハッピーエンドに思える、すさまじき人間の業を感じさせる作品だった。
オススメ度 ★★★*