こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

わたしはロランス

otello2013-07-27

わたしはロランス Laurence Anyways

監督 グザヴィエ・ドラン
出演 メルヴィル・プポー/スザンヌ・クレマン/ナタリー・バイ
ナンバー 143
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ずっと自分を偽ってきた。心の性とは違う体の性、違和感を覚えながらも社会に同調し、家族や恋人にも隠してきたが、もはやこのままでは自己崩壊が起きる。そう判断した男は女として生きる決心をする。好奇心、嘲笑、嫌悪感、“改性”した本人は覚悟ができている。だが心構えのできていない恋人にはすべてが耐えられない。胸が切り刻まれるような痛みを感じ、1日が無事に終わってやっと安らぐという不安定な日々が彼女を蝕んでいく。物語はふたりの10年の時の流れを追い、その愛と別れ、再会を繰り返す姿を描く。輝いていた過去は戻らない、そして選択とは何かを捨てることであると映画は訴える。

国語教師のロランスは小さな文学賞を受賞し、それを機に“心は女”であると同棲中の恋人・フレッドに打ち明ける。一度は取り乱したフレッドだが、ロランスに協力する決意を固める。しかし、現実はふたりに厳しく冷たかった。

まだ性同一性障害精神疾患と考えられていた1990年代、オカマでもゲイでもないロランスの性的し向は、普通の人には受け入れられない。フレッドも頭では理解していても今までだまされていた後味の悪さが付きまとう。学校をクビになり傷ついているロランス、彼と一緒にいる辛さにフレッドが感情を爆発させるシーンには、世間の目と闘う難しさ以上に、最愛の人が別世界に行ってしまった寂しさと怒りがリアルに表現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

破局した後、フレッドは結婚、ロランスは詩人として成功し若い女と同棲している。ロランスの詩を読んだフレッドは彼が見守っていてくれていたと知り、連絡を取る。ところが、喜びもつかの間、やはりふたりの溝は埋められない。話し合っても己の気持ちを押し付けるだけで最後はケンカになる。偏見にさらされてきたからこそ言葉で武装しているのだろう。もう少しお互いを尊重し距離をとっていたならば友人として長く付き合えたはずなのに、愛する思いが強すぎる。それゆえに相手に対しても貪欲に見返りを求めてしまう。そんなふたりの不器用な生き方が哀しかった。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓