こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トランス

otello2013-08-03

トランス TRANCE

監督 ダニー・ボイル
出演 ジェームズ・マカヴォイ/ロザリオ・ドーソン/ヴァンサン・カッセル
ナンバー 190
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

失くした記憶は取り戻せるのか、消された記憶はよみがえるのか。潜在意識に埋もれたしまった出来事を浮かび上がらせた男は、知らなかったはずの事実に驚き戸惑い恐怖する。今の自分は何者なのか、本当の自我はどこにあるのか、誰かにコントロールされているのか。現実と虚構、その境界が分からなくなるほど深いトランス状態で、彼はようやく真実にたどり着く。映画は、名画強盗に手を貸したオークション会社社員が、名画の秘匿場所を思い出すために催眠療法を受け、望まぬ過去に遭遇する姿を描く。スタイリッシュな映像と腹に響くサウンド、スピーディでミステリアスな展開は、主人公の混乱した頭の中を覗き込んでいる気分になる。

オークション会場でゴヤの名画が強奪される。競売員のサイモンは強盗団のボス・フランクを出し抜いて絵を横取りするが、フランクに殴られたせいでどこに隠したか忘れてしまう。サイモンは催眠セラピスト・エリザベスを訪ね、記憶を修復してもらう。

エリザベスは浅黒い肌の大きな目のいわくありげな美女。サイモンの素性と目的を即座に見抜いた彼女は、フランクに自分も一枚かませろと持ちかけるなど、ギャングを恐れない大胆さも持つ。彼女がサイモンの意識の深層に働きかけ手がかりを探していく過程で、サイモンの脳内に投影されるのは、夢でもなく幻覚でもなくどこか知覚と妄想が入り混じったリアルな感覚に満ちたヴィジョン。それは蓄積途中でサイモンの脳が都合よく脚色した疑似体験にも見える。さらにエリザベスの不審な行動が、一筋縄ではいかない複雑な事件の構造を徐々に明らかにしていく。操っているのはだれか、嘘をついているのはなぜか、謎が謎を呼ぶ構成にスクリーンから一瞬も目が離せなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてサイモンが絵の在処をフラッシュバックさせるとともに、忌まわしい記憶の封印も解かれてしまう。そして、1枚の絵を巡って、フランク、エリザベス、サイモンの3人がそれぞれ己の本性を露わにしていく。ビデオレターをタブレット端末で送るなど、あくまでクールな寓意にあふれた作品だった。

オススメ度 ★★★*

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