こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アラモ THE ALAMO

otello2004-10-01

アラモ THE ALAMO

ポイント ★*
DATE 04/9/25
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 ジョン・リー・ハンコック
ナンバー 112
出演 デニス・クエイド/ビリー・ボブ・ソーントン/ジェイソン・パトリック/パトリック・ウィルソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

アメリカ史を語る上で1836年のアラモ攻防戦というのはとても重要なのだろう。だからこそアメリカ側の登場人物も多彩になり、誰が主人公なのかよくわからない。誰か語り部となる主人公を決め彼の目を通して見たアラモの戦いという構成にしないと、視点が定まらず散漫な印象になってしまう。総花的にするほど重要人物が出ているとも思えず、結局メキシコ軍の将軍だけが強烈な個性を放っているだけに留まっている。

メキシコ軍からアラモを解放したアメリカ軍だが、メキシコ軍の反撃に備えてアラモ砦にこもる。しかし、米国側は政治家や軍人、民兵などの思惑が入り乱れなかなかまとまらない。そこに伝説のデイビー・クロケットが現れる。

多くの人物を描こうとしたのが失敗の原因だ。正規軍の中佐、民兵を指揮する大佐、クロケット、そして援軍の指導者。米軍側の登場人物は誰もが個性に乏しく、唯一の有名人クロケットですら苦虫を噛み潰したような表情を終始崩さず、見せ場も敵将を狙撃する場面のみ。バイオリンを奏でて戦場の空気を緊張から解き放つというシーンもあったが、それとて夕焼けをバックに格調高い調べが死を覚悟した兵士たちの心に染みわたるという演出にしないと、映画としての盛り上がりに欠ける。結局、アラモ攻防戦の詳細は理解できたが、人間を描けていないために作品を通じて訴えかけてくるものが何もない。

アラモ陥落後、メキシコ軍はヒューストン率いるテキサス軍に18分で撃破されるなどという後日談はまったくの蛇足だろう。あくまでアメリカ人はヒーローとして描かれ、メキシコ人は野蛮な人殺し。アメリカ人がアメリカ人向けに作った映画なのだからある程度は仕方がないのだろうが、この作品を見て愛国心を掻き立てられるアメリカ人はどれくらいいるのだろう。少なくともヒスパニック系は不快に思うだろう。

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