こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ピエロの赤い鼻 EFFROYABLES JARDINS

otello2004-10-14

ピエロの赤い鼻 EFFROYABLES JARDINS

ポイント ★★★★*
DATE 04/10/9
THEATER シネスイッチ銀座
監督 ジャン・ベッケル
ナンバー 119
出演 ジャック・ヴィユレ/アンドレ・デュソリエ/ティエリー・レルミット/ブノア・マジメル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

人の命が軽かった時代だからこそ、人は自分の人生に意味を持たせようとする。ただ死ぬのではなく、自分の命を価値のあるものにしたいと強く願う。命を託されて生き残った人間にできることは彼らを悼み、その遺志を受け継ぐこと。死者への思いが熱ければ熱いほどその死は報われるのだ。

ドイツ占領下のフランスの田舎町、ジャックとアンドレは鉄道のポイント操作所を爆破する。しかし、彼らはすぐに容疑者として捕らえられ、無関係な二人とともに深い穴に監禁。真犯人が自首しなければ見せしめにこの4人を殺すと宣告される。処刑時刻が近づくにつれ4人は絶望にさいなまれるが、そこにひとりのドイツ兵が現れ、彼らを笑わせて希望を持たせようとする。

物語は、道化を演じてばかりいるジャックを嫌う彼の息子に、アンドレが昔語りになぜジャックがピエロになったかを聞かせるという設定。戦争を知らない世代に、親の世代がいかにひどい時代を生きてきたか、そんな時代にも人間としてのやさしさと尊厳を持った人がいたことを語るのだ。特に捕虜となった4人に「生きている限り希望はある」と励まし、自ら穴の上で道化を演じて彼らを笑わせたゾゾというドイツ兵のキャラは秀逸。命令には絶対服従の殺人マシーンのようなドイツ兵ではなく、戦争に嫌気がさし平和を望んでいる心優しい人間。非人間的なSSの上官よりもフランス人捕虜に共感を示すのだ。

ゾゾは捕虜を射殺せよという命令に赤い鼻で答える。赤い鼻は、国同士の面子や独裁者の野心の道具でしかない戦争を笑い飛ばす象徴であり、ゾゾのプライドだ。国家がいくら戦争を叫んでも、すべての人々から良心を奪い取ることはできない。ゾゾは命令違反で射殺されるが、ゾゾの笑いをジャックが受け継ぎ、さらにジャックの息子にもその魂が継承される。それは、戦争や国家という大きな力の前では無力に思えるような個人の良心が高らかな勝利を収めた瞬間だ。


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