こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

隠し剣 鬼の爪

otello2004-11-05

隠し剣 鬼の爪

ポイント ★★★*
DATE 04/11/3
THEATER 109シネマズ港北
監督 山田洋次
ナンバー 128
出演 永瀬正敏/松たか子/吉岡秀隆/小澤征悦/田畑智子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

江戸時代末期のいなか侍の地味で質素な生活を通じて人情を語り、一応クライマックスには剣劇も用意している。「たそがれ清兵衛」の路線をそのまま踏襲した作品で先の展開も読めてしまうのだが、「プライドを捨てきれない男」のつらさをこの作品でも山田洋次はきめ細やかなタッチで丁寧に描いている。武士といっても所詮は役所勤めのサラリーマン。その単調な日常と代わり映えしない人間関係の中での諦観と、一方でいかに自分の人生を有意義なものにするか。その葛藤に愛を絡めることでしみじみとした味わいを出すことに成功している。

下級侍の片桐はかつて自分の家に奉公に来ていたきえを、むごい扱いを受けていた嫁ぎ先から取り戻し介抱する。一方、江戸で謀反の疑いをかけられた片桐の旧友・狭間が脱獄し、百姓家に人質を取って立てこもる。片桐は家老から狭間を切るように命じられ、かつての剣術の師匠から隠し剣を伝授される。

ここまで「たそがれ清兵衛」に似せて作るのはどうかと思う。もちろん俳優を替えているが、宮仕えの身にやりがいを感じるより私生活の日々の営みに幸せを感じ、その剣術の腕ゆえ望まぬ命令を実行しなければならないという設定は同じ。主人公のキャラクターにもう少しバリエーションを持たせればちがう味が出たのではないだろうか。まあそうやって同じようなテイストで描かれていることで、山田作品はある意味安心して見ていられるのだが。

やはりそれでもスクリーンから目が離せないのは、ひとえに山田監督の主人公たちに向けられるまなざしの優しさだゆえだ。決して強くはない。それでも芯は一本通っている。それゆえに不器用な生き方しかできない。友情と藩命に板ばさみになりながら藩命を優先させなければならない辛さ、身分を越えた恋になかなか行動に移せない弱さ。そしてこの作品は最後に暗殺剣で非道な上司に一矢報いることで、清涼なカタルシスが心を突き抜ける。

他の新作を見る