こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

砂と霧の家 HOUSE OF SAND AND FOG

otello2004-11-19

砂と霧の家 HOUSE OF SAND AND FOG


ポイント ★★*
DATE 04/11/11
THEATER 渋谷シネパレス
監督 ヴァディム・パールマン
ナンバー 133
出演 ジェニファー・コネリー/ベン・キングスレー/ロン・エルダード/ショーレー・アグダシュルー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


テラスから目前に芒洋と広がる大海原の眺望。それは故郷を思い出させ生きる希望の元になる。主人公にとってその家を手に入れることは自分の人生を取り戻すことであり、将来を約束するものだ。しかし元の持ち主にとってもそこは家族の思い出が詰まったあたたかい記憶の玉手箱。役所のミスで他人の手に渡った家を取り戻すために元の持ち主は行動を起こす。しかし、敵対しあう同士を等距離で描き、なおかつ抑制が効きすぎた演出のせいで、余韻を持たせるというよりただぬるいという感じしか受けない。


所得税滞納で差し押さえられた家を競売で手に入れたベラーニのもとに、元の持ち主・キャシーが現れる。差し押さえは役所の手違いなので落札価格で買い戻したいというが、ベラーニは市場価格でしか売らないと拒否。キャシーは知り合った警官の助けを借りて実力行使に出る。


工事現場で働くベラーニが家族の前ではきちんとした身なりをしたり、家具調度が高級だったりと彼の以前の暮らしがしのばれる。亡命イラン人で元高級将校。その誇りを捨てない生き方がまぶしい。一方のキャシーは自堕落な性格で夫からも見放されている。ベラーニが堕落したアメリカ人を息子の前で批判するシーンは手厳しい。ベラーニに限らず米国に移住してくる外国人は真剣に人生を切り開こうとしているのに、自由の上にあぐらをかいて何ら自助努力をしないアメリカ人の代表としてのキャシー。この2人を対比した時、ベラーニに感情移入してしまうのは仕方あるまい。


物語はキャシーに入れ揚げた警官の暴走で一気に加速する。せっかくキャシーとベラーニが落としどころを探っている時にベラーニ家に押し入りすべてをぶち壊す。ここでも心が広く思慮深い上に家族思いのイラン人と短絡で暴力的なアメリカ人が対に描かれ、イラン人は悲劇の被害者となる。しかし、ベラーニがイランで何をしていたとかキャシーの家や家族の思い出など、彼らのバックボーンがほとんど語られないので紛争の原因になった家に対するこだわりがイマイチ見えてこない。そのあたりもう少し感情を込めて描いていれば、「劇的」な映画になっていたはずだ。


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