こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イブラヒムおじさんとコーランの花たち

otello2004-12-01

イブラヒムおじさんとコーランの花たち
MONSIEUR IBRAHIM ET LES FLEURS DU CORAN

ポイント ★★★*
DATE 04/11/25
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 フランソワ・デュペイロン
ナンバー 139
出演 オマー・シャリフ/ピエール・ブーランジュ/イザベル・アジャーニ/ジルベール・メルキ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生の終盤を迎えた者とこれから人生を切り開いていく者。孤独な老人は自分が生きた人生の証として最後の愛を少年に注ぐ。孤独な少年はその老人を師として先の長い人生について学ぼうとする。二人は必然的に出会い親子以上に固く結ばれるのだが、大上段に構えた人生訓を説くのではなく、生活のために必要な知恵や女への接し方など、「正しい人生の送り方」ではなく「楽しい人生の送り方」に徹しているところがいい。大きな夢に向かって努力を惜しまないというのではなく、小さな幸せに満足する人生も捨てたものではないことを主人公の少年と老人は訴える。


パリの小さなユダヤ人街に父と二人で暮らすモモは、父から愛されずガールフレンドにも相手にされない。いつも買い物に行く雑貨屋の老人と口を利いたことから仲良くなり、父が自殺した後の後見人になってもらう。やがて養子縁組をした二人は、老人の故郷・トルコに向かうために真っ赤なオープンカーを買う。


湿っぽくなりがちな話にところどころエスプリに満ちたシーンを挿入することで、作品にスパイスを効かせている。モモが初体験を済ませるシーンを貯金箱を振るイメージで表現したり、口うるさい父親にキャットフードを食べさせたり。街でロケ中に店に訪れた映画スターとの会話からもパリの香りが漂ってくる。少年にとって世界のすべてだったパリの裏町が、こうしたディテールの積み重ねで小宇宙のような広がりを持ち始める。


ところがオープンカーでパリを出たとたん、物語の小宇宙は狭まり始める。トルコへの旅はただ点と点を結ぶだけ。空間的移動で世界は奥行きを持つはずなのに、オープンカーの外には出ない。行く先々の土地はモモにとっては言葉の通じない異世界でしかない。モモに人生はパリでこそ輝くのだ。だからこそモモが老人の店を相続したというラストシーンにほっとさせられた。


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