こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

五線譜のラブレター

otello2005-01-14

五線譜のラブレター DE-LOVELY

ポイント ★★★
DATE 05/1/6
THEATER シャンテ・シネ
監督 アーウィン・ウィンクラー
ナンバー 3
出演 ケビン・クライン/アシュレイ・ジャド/ジョナサン・プライス/ナタリー・コール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


歌って踊ってピアノを弾いて、まさにエンタティナーと呼ぶにふさわしいケビン・クラインの芸達者ぶりがこの作品の命だ。豪華絢爛という言葉がまだ輝きを失っていない時代に生きた作曲家の半生を、腰を据えてとらえたカメラは美しく、贅沢だ。そして何より全編を彩る耳に優しいメロディ。コール・ポーターの真髄を味わうには少し物足りないが、それでも映画が紡ぎだす歌と旋律には心がとろけるような陶酔が味わえる。


パリの社交界でリンダに一目惚れしたコール・ポーターは同性愛者にも関わらず彼女と結婚、ブロードウェイで仕事を始める。ミュージカルで成功したコールはやがてハリウッドにも進出、その名声は不動のものとなる。その陰には常にリンダの内助の功があり、それに気づいたコールはリンダへの愛を貫く決意をする。


妻の財力に頼り、作曲家としてあまり自信のなかったコールを、妻のリンダが勇気付けてより上を目指させる過程に愛があふれている。夫のためにカネと人脈を使い一流に育て上げる。夫の同性愛も黙認する。リンダは妻の鑑のような女性だ。結婚式に乱入した前夫に「コールは創造者で、あなたは破壊者」と切り捨てるシーンが小気味よい。コールの後半生は、そんなリンダだけを愛する一人の男としてのポールの心境の変化を、上質な絹織物のような気品をたたえた滑らかさな演出で見せる。


コール自身が自分の死後にミュージカル化された自らの半生を演出家とともに見るという構成をとっているため、コール自身に都合の悪いことや公になっていないことは描かれない。たとえば創作の苦しみや、妻と男妾との間での葛藤とか、彼が大いに苦悩することだってあったはずだ。しかし映画は、いわゆる「キレイ事」のオンパレード。華やかに見えるショービジネスの成功者の生活も、それは一部だけで水面下では神経をすり減らすような厳しい生活をしているところもきちんと語って欲しかった。


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