こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

北の零年

otello2005-01-21

北の零年


ポイント ★*
DATE 05/1/19
THEATER 池袋シネマサンシャイン
監督 行定勲
ナンバー 9
出演 吉永小百合/豊川悦司/柳葉敏郎/石原さとみ/石田ゆり子/香川照之/渡辺謙
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


故郷を追われ夢と希望だけを糧に未開地の開墾に命をかける開拓民たち。厳しい自然と闘いながら痩せた土地に懸命に鍬や鋤を入れる彼らの姿を壮大なスケールで描く、はずだった。しかし、土にまみれて生きているはずのヒロインを演じた吉永小百合に製作者側が気を使いすぎて、彼女だけが物語から浮いている。また、あまりにも物語を俯瞰しすぎたせいで焦点がぼけ、エピソードが散漫になっている。


明治政府から北海道移住を命じられた淡路の藩士・人民は、小松原をリーダーにして静内に新天地を求め開拓を始めるが、稲は実らず備蓄も底をつきかける。小松原は寒冷地でも育つ稲を求めて札幌に旅立つが、そのまま消息を絶つ。残された妻・志乃と娘は牧場経営に乗り出し、アイヌの助けも得て良馬を産するまでになる。


ヒロイン・志乃はどんな状況でもきちんと着衣を整え、髪も乱れず肌にも汚れひとつない。それは元武家の妻であることの矜持なのかもしれないが、夫たちは生きるために髷を切り武士の誇りを捨てている。ならば志乃も泥まみれ垢まみれになるべきだろう。しかしそうならないのは吉永小百合のイメージを守るためとしか思えない。小百合にだけリアリティのない役柄を演じさせ物語から乖離した隙間ができているのに、彼女のアップを多用して更にその空間を広げている。これでは絶望した仲間に「生きなさい」と言葉をかける志乃の声も空疎にしか響かない。


また、渡辺謙豊川悦司香川照之などのスター俳優にも気を使いすぎ、それぞれ見せ場を無理やり作ろうとして失敗している。特にアイヌ役のトヨエツが最後に正体を見せるシーンなど蛇足以外の何者でもない。かっこいい役を与えないとトヨエツファンが納得しないと思ったのだろうか。だいたい、行定勲は若い俳優を使った若者向けの映画を得意とする演出家だ。東映は、彼センスと大時代的な物語のミスマッチを期待したのだろうが、その目論見は完全に外れてしまった。


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