こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

陽のあたる場所から

otello2005-01-28

陽のあたる場所から STORMY WEATHER

ポイント ★★*
DATE 05/1/22
THEATER シャンテ・シネ
監督 ソルヴェイグ・アンスバック
ナンバー 11
出演 エロディ・ブシェーズ/ディッダ・ヨンスドッテイル/ナタン・コガン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


この映画のヒロインは何が原因で心を閉ざしたのだろう。そして彼女を担当する精神科医はなぜあれほどまでにこの患者に執着するのだろう。他人を癒すことは自分が癒されること。他の医者が匙を投げた患者の容態を好転させることはこの女医にとってこの上ない喜びだろう。しかし、職務以上に患者のプライバシーに立ち入るのは傲慢以外のなにものでもない。おそらく自分の意思で心を閉ざしたこの患者の心を無理やりこじ開けても、患者は新たに悲しい思いをするだけなのではないだろうか。


フランスの精神病棟で身元不明の自閉症患者・ロアの担当医になったコーラは、彼女が自分にだけは心を開きかけていると思い込む。そんなある日、ロアの身元が判明し彼女は強制送還、コーラはロアを追って厳しい寒さが待つアイスランドの離れ小島に行く。周囲の反対を押し切ってコーラはロアをフランスに連れ戻そうとする。


ロアが言葉を口にしなくなった原因は一切明らかにされない。故郷の村での夫との会話から、別に暴力や深い悲しみのせいで話すことをやめ、放浪するようになったのではなく、彼女自身に問題があるとしか思えない。ロアが生まれ持った心の闇。おそらくロア自身にもその原因はわからないのだろう。だから精神科医に解決の糸口はつかめるはずはなく、ロア自身もその運命を受け入れている。


結局はコーラの一人相撲だ。喜びや悲しみは感じなくても、不安や恐怖は感じるロアの気持ちを自分に都合よく解釈しただけなのだ。コーラが島を去るとき、ロアは一瞬コーラの手を取り自分の胸に当てる。荒れた天候が続く島にその瞬間だけ陽光が降りそそぐ。それはロアがコーラを受け入れたことを示す行為でもあるのだが、一方で、もうこれ以上自分にかまうなというメッセージを含んでいるようにも思える。ただ、テーマをもっと明確に主張しないと、見たあとに感想を問われても、ロアのように口をつぐむしかない。


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