こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

火火

otello2005-01-31

火火

ポイント ★★★
DATE 05/1/27
THEATER 新宿武蔵野館
監督 高橋伴明
ナンバー 14
出演 田中裕子/窪塚俊介/黒沢あすか/池脇千鶴/遠山景織子/岸部一徳/石田えり
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


燃え盛る窯の炎のように情熱的。静謐な気品を湛えた壷のように理知的。双方を兼ね備えた伝説的女性陶芸家の型破りながらも愛に満ちた半生を、叩きつけるようにスクリーンに描く。最適の土と最高の窯を求め続け、ついに完成させた理想の焼き物は、その作品に込められた魂のきらめきを発散させる。作品には妥協しない陶芸家としての決意と、その一方で世知には不器用な芸術家らしい一面をもつヒロインの強烈な個性を映画は余すことなく語る。


夫に逃げられ二人の子供を抱えて生きる陶芸家・清子は貧しい生活の中で独自の技法を研究、数年後に誰もなしえなかったような作品を生み、名声を得る。成長した長男は陶芸の道に進み一緒に焼き物作りに精を出すが、白血病に倒れる。適合する骨髄ドナーを探す一方で、骨髄バンク設立という清子の新たな闘いが始まる。


完璧な美を追求する陶芸家としての清子の姿から、後半は一変して長男の闘病記になる。もちろん清子は母として当然関わるのだが、息子を救う会や骨髄移植手術などを克明に描写するあまり、映画は陶芸と距離ができてしまう。高橋伴明監督はなぜこのようなミスを犯したのだろうか。息子の闘病費用を稼ぐために今まで以上に仕事こなさなければならないのだから、息子への思いを創作のエネルギーにして新しい作風を編み出すとか、逆に稼ぐために意に染まない消耗品を作るとか、あくまで清子と陶芸を物語の中心に据えるべきだろう。そうしないと長男の入った棺桶を放って窯にまきをくべに行くというラストシーンが生きてこない。


それでも田中裕子がこの偏屈な陶芸家を好演したおかげで救われている。息子が万引きしたラーメンを無理やり口に押し込んだり、入院中の息子に最後の誕生日と言ってみたり。変人なりに一本筋が通っていて、彼女のそういう日常のディテールが笑いを誘う。また、息子の病気を誰よりも気に病み死を誰よりも悲しんだ母親としての顔も見せるのだが、決して人前では湿っぽい態度を見せない。その表層の奥に隠された深い悲しみを、一瞬の目の動きや口元の変化で表現する田中裕子の演技力があってこその映画だった。


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