Ray レイ
ポイント ★★★
DATE 05/2/1
THEATER テアトルダイア
監督 テイラー・ハックフォード
ナンバー 16
出演 ジェイミー・フォックス/ケリー・ワシントン/レジーナ・キング/ハリー・レニックス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
窓の外で羽ばたくハチドリの羽音を聞き取る聴力、手を握っただけで相手の心を読んでしまう指先の触覚。幼いときに視力を失った代償として手に入れた超人的な能力がレイ・チャールズの記憶力を鍛え、センスを生み出す。即興で作った曲が人の心をつかみ、恋人との痴話げんかを歌詞にした歌が大ヒットする。斬新な曲想と共感できる詞をまたたく間に生み出してしまうレイ。しかし、熱く生きるとか闘うといった姿勢は彼の母親には見られるが、レイにはそれほど人生に対する切実感はない。そこが天才と呼ばれる所以なのだろう。
若き日のレイは成功を夢見てシアトルに出る。そこで知り合ったバンド仲間とともに成功の道を登り始め、彼のピアノと歌はまたたく間に全米中オンエアされるようになる。一方で、女癖の悪さとヘロインに徐々に心身ともに冒されていく。
多くの天才物語同様、この作品の主人公・レイも創作に苦悩することはない。曲はあらかじめ彼の中で完成していて、心に浮かんだメロディをそのまま指で鍵盤を叩く。歌詞も自分の思いを声にしているだけ。しかもそうして生まれた楽曲が常に新しい魂を音楽界に吹き込む。そんなレイの所作の細かいところまでジェイミー・フォックスは再現し、まさにこの映画に魂を吹き込んでいる。
しかし、レイが存命中に撮影され、関係者がまだほとんど生きている状態では、彼の人生に大胆な創作や解釈を挟むことができないため、この映画が大胆に想像力を刺激することはない。ゆえに名曲誕生秘話なども、レイの宣伝担当が作った「レイ伝説」にのっとている。多少は人生の暗部も描かれているのだが、そこにレイの苦悩はない。もちろん幼い頃に弟を無くし自分も盲目になるという悲劇を背負い、もはや悲しむという感情を捨て去ったのかもしれない。いつも気のいい仲間と優しい家族に囲まれ幸せなレイ。さわやかだがうそ臭い、なんかコカコーラのコマーシャルを見ているような気分になった。