こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボーン・スプレマシー

otello2005-02-11

ボーン・スプレマシー THE BOURNE SUPREMACY


ポイント ★★★*
DATE 05/1/13
THEATER UIP
監督 ポール・グリーングラス
ナンバー 6
出演 マット・デイモン/フランカ・ポテンテ/ブライアン・コックス/ジョアン・アレン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


体感カメラという趣の撮影方法で、カーチェイスのシーンでは主人公と同様の緊張感を観客は味わうことができる。ステアリングをせわしなく切り、アクセルとブレーキペダルを頻繁に踏みかえる。すさまじいスピードと加速、右左折時の横Gが皮膚感覚としてスクリーンを通して客席に飛び込む。ただ、そういったシーンの連続はリアリティこそ伝わるが、正直言って乗り物酔いをしたような気分になってしまう。


CIA公金横領事件の証拠ファイル取引現場に殺し屋が現れ、ジェイソン・ボーンに濡れ衣を着せた上にファイルとカネを奪って逃げる。殺し屋はさらにボーンの命を狙うことで、CIAとボーンがお互い敵対関係になるように仕掛ける。ボーンとCIAの駆け引きの中で、ボーンは過去の暗殺を思い出し、事件の真相と過去の亡霊を葬るためにモスクワへ向かう。


前作同様、見かけの派手さよりもディテールにこだわった映像は圧倒的な迫力を持つ。危険を察知した時に走る切迫感、CIAの真意を知るためにわざと捕まったり職員の居場所を突き止めるためのトラップなど、ボーンの能力は遺憾なく発揮される。しかし、そうしたボーンの行動がすべて合理的アイデアに基づいているのに、なぜか彼は偽装工作をしない。変装や指紋を残さないための手間を一切省き、ホテルや駅などあちこちに自分の痕跡を残すのだ。ナポリで拘束された時のような計算がベルリン見られないのはどうしてなのだろう。さらに、モスクワにはほとんど無防備で行く。罠が待ち構えていることを想定しその罠を逆手に取るようなプロットがないと、ボーンの能力を100%引き出しているとはいえまい。


たとえ人間の心を取り戻しても、殺人マシーンとして養成され暗殺を生業にしてきた人間には決して安らぎは訪れない。CIA女性職員と話すラストシーンにはそんな悲しみが満ちていた。2作目で恋人を殺してしまっては、3作目「最後の暗殺者」はさらに原作から遠い映画になりそうな気がする。


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