こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きみに読む物語

otello2005-02-23

きみに読む物語 THE NOTEBOOK

ポイント ★★★
DATE 05/2/18
THEATER 新宿ジョイシネマ
監督 ニック・カサヴェテス
ナンバー 23
出演 ライアン・ゴズリング/レイチェル・マクアダムス/ジーナ・ローランズ/ジェームズ・ガーナー/ジョアン・アレン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


身分違いの恋、両親の反対、戦争、そして新たな恋。凡庸なメロドラマの要素が満載されたあまりにも通俗的ラブストーリーが展開される。しかし、一方にその物語の語り部たる老人たちの事情をミステリアスに描くことで映画は重層的になり、深い感銘をもたらす。愛する人のために燃えるような情熱を持つことができた若い日々とは違い、人生の残り時間が僅かになった老人はその炎も消えかけている。それでもできる範囲で相手を思い続ける持続力。カネや名声に縁のない平凡な人生でもこの愛に勝る輝きはない。


製材所で働くノアはアリーという金持ちの少女に一目ぼれし、交際を迫る。2人の仲は順調に進むが、アリーの両親の反対で引き裂かれる。ノアは第二次世界大戦に従軍する一方、アリーは看護婦のボランティアをしていた病院で元兵士に見初められプロポーズされる。その男は富豪の息子でアリーの家柄ともつりあい、程なく結婚の約束をする。そんな時、アリーは新聞でノアの写真を眼にする。


老人に若い2人の恋の顛末を聞かされる痴呆症の老婆は、彼の話を聞くうちに記憶を取り戻していく。その過程で恋愛譚の主人公こそ自分たちであることに気づいていくのだ。そして彼女が正気を取り戻したのもつかの間、再び自分が誰かもわからなくなる。老人のセリフから同じことが何度も繰り返されていたことがわかる。このシーンに凝縮された妻に対する愛の深さ思いの強さは、あえて映像で描かないことでこの作品の表情を豊かにし豊穣な味わいを醸し出す。


また、アリーの母親が自分の体験を話すシーンも、愛を取るか安定した生活を取るか迷った女心と母として娘を思う気持ちに実感がこもっていて涙を誘う。ただ、無理やりハッピーエンドにしたようなラストシーンは蛇足だった。年老いたアリーの正気がすぐにまた認知障害に戻り、やっぱりノアはがっかりする。そこで終わっておいたほうが若い時代の幸せな思い出と好対比をなし、より効果的な余韻を残すことができたはずだ。


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