こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

運命を分けたザイル

otello2005-02-28

運命を分けたザイル TOUCHING THE VOID

ポイント ★★★★
DATE 05/2/23
THEATER テアトルタイムズスクエア
監督 ケヴィン・マクドナルド
ナンバー 24
出演 ブレンダン・マッキー/ニコラス・アーロン/オリー・ライアル/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


そそり立つ氷の絶壁を自分の手足だけで登り、視界を奪う吹雪の中を突き進む。頼りになるのはパートナーのみ。雪山登山の厳しさを圧倒的なリアリティでカメラに収める撮影技術に舌を巻く。まるでドキュメンタリー映像のように劇的な演出を拒み、ただただ人間を寄せ付けない峻険な岩山と氷河・急変する天候に挑む2人の登山家が運命に翻弄される姿を淡々と描く。


アンデスの人跡未踏峰にサイモンとジョーという2人の若者が挑む。しかしその峰は2人の想像をはるかに越えた難所続きで、頂上を極めた後の下山途中、ジョーは右足を骨折する。天候が悪化する中、サイモンは2人をつなぐザイルを切断、ジョーは深いクレバスの中に転落する。


極限状態で右往左往する2人の心理を実在の2人がインタビュー形式で答えているという構成にしたおかげで、表情が読めない吹雪の中の映像からでも緊張感がほとばしる。そしてその言葉は実際に遭難の恐怖を克服し死に直面したものだけが発するだけに、真実の重さがずしりと感じられる。特にパートナーを見捨てなければならないサイモンの苦悩、そしてパートナーに見捨てられたと知ったジョーの絶望。第三者的な視点から淡々とした語りで描くことでかえって2人の間の心理的葛藤をうかがわせ作品に重層的な効果をもたらしている。


ただ、1人でクレバスに落ちそこから生還したジョーの姿を描くシーンは、下手な演出のせいでドキュメンタリー的な味わいが消えている。右足を固定し、雪原を這う。片足で岩場をはねながら進む。彼の生に対する執着、そしてそれを実行に移す強固な決意。それらのシーンは人間の強靭な精神力は肉体の限界をも克服することを教えてくれる。しかし時折、死への誘惑に負けそうになり幻覚を見たり正気を失いそうになるシーンが挿入される。そこだけがジョーの主観映像になり、映画全体の調和を乱している。あくまでも当初の第三者=神の視点を貫いて欲しかった。


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