こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビヨンド the シー

otello2005-03-07

ビヨンド the シー BEYOND THE SEA

ポイント ★★*
DATE 05/3/1
THEATER 新宿武蔵野館
監督 ケビン・スペイシー
ナンバー 26
出演 ケビン・スペイシー/ケイト・ボスワース/ジョン・グッドマン/ボブ・ホスキンス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ケビン・スペイシーの体臭がぷんぷん匂う完全な「オレ様」映画だ。たとえば「Ray」のように実在する主人公そっくりの役作りをするのではなく、演じているのはスペイシーそのもの。スペイシー自身が自分の芸達者振りを披露するかのように歌い踊り演奏する。もちろんその役作りに対する真摯な姿勢は素晴らしい。しかし、主人公・ボビー・ダーリンの生き方を描くというより、ボビーを演じている自分自身にうっとりしているのではないかと思えるほどの、スペイシーの自己愛に満ちた作品だった。


幼い頃、難病で15歳まで生きられないと医者に宣告されたボビーは、母に音楽の楽しさを教えられたおかげで病気を克服、ミュージシャンとして成功する。その後映画にも進出、女優と結婚して絶頂期を迎えるがやがてベトナム戦争に反対の姿勢を示し、世間から時代遅れのレッテルを貼られる。


ボビーが自分の自伝映画を撮影するシーンから始まり、少年時代のボビーを演じる少年が登場する。しかし本来この少年が語り部になるはずなのにいつのまにか消えている。このプロローグの構成はまったくの不要だ。おそらく「五線譜のラブレター」に似たための修正だろうが、どうせならばっさりとカットすべきだった。


一応、ボビー・ダーリンの伝記映画の体裁を取ってはいるが、そこで描かれるエピソードは登場人物の表層をなぞるだけで心を打つ真理は伝わって来ない。大人になったボビーをそのままのケビン・スペイシーが演じる。そこには俳優が役柄を演じていることを忘れさせるような鬼気迫るもはない。最初から最後まで、ケビン・スペイシーが自分のために作った自分のプロモーションフィルム。もちろんエンタテインメント性も豊かで、歌や音楽も耳に心地よく映像からも楽しい雰囲気があふれている。ただ、親子関係の秘密以外のエピソードには奥行きがなく、心の表層を上滑りしていくだけだ。


他の新作を見る