こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エターナル・サンシャイン

otello2005-03-25

エターナル・サンシャイン ETERNAL SUNSHINE OF THE SPOTLESS MIND

ポイント ★★*
DATE 05/3/19
THEATER チネチッタ
監督 ミシェル・ゴンドリー
ナンバー 34
出演 ジム・キャリー/ケイト・ウィンスレット/キルスティン・ダンスト/イライジャ・ウッドト/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


誰にでも忘れてしまいたいつらい記憶はあるだろう。しかし、その記憶=体験から学習するのが人間。先の短い老人が美しい思い出に囲まれて人生を終えたいと思う気持ちなら理解できるが、まだまだ生きていかなければならない世代の人間が失恋ぐらい乗り越えられなくてどうするのか。不愉快な別れ方をしたというだけでその恋愛すべてのデータを自分の意思で記憶から消し去るなんて、バカなこと。悲しい思い苦しい思いこそが人間を大きくし、他人を思いやる気持ちを育てるはず。かつての恋人の記憶をゴミのように捨てるヒロインに魅力は感じない。


バレンタインデーに突然通勤がイヤになったジョエルは反対方向の電車に乗って冬の海岸に出る。そこでクレメンタインという一風変わった女性と出会い、恋に落ちる。かつて2人は恋人同士だったが、クレメンタインは特殊な手術を受けてジョエルの記憶を消していた。ジョエルも同じ処置を受けようとするが、彼の潜在意識がそれを拒否して、2人の甘い思い出ばかりがよみがえる。


ジョエルの脳内イメージと、彼に処置を施す医療チームの映像が複雑に入り組んで混乱する。デジャヴかと思えば現実だったり、現実と思えばジョエルの思念だったり。その境界は限りなくあいまいで、思考の主体が実体を持った存在であることに疑問を抱かせる。感覚や記憶など所詮は脳が認知したことで、電気的刺激を与えることでいくらでも変えられるという、あまりにもそっけない答え。医療チームの職員も同じ施術を受けて不倫の過去を消していたというオチは、悲しくなってくる。


それでも人間の誰かを愛したいという感情までは電気的に処理できないのだろう。ジョエルとクレメンタインはやはり再び恋に落ちる。いじられた記憶への再挑戦。科学に対する人間性の勝利。さりげないけどとても深い、そんな愛の再生を示唆したおかげで後味は悪くなかった。


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