こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アビエイター

otello2005-03-30

アビエイター THE AVIATOR

ポイント ★★★★
DATE 05/3/26
THEATER 109シネマズ港北
監督 マーティン・スコセッシ
ナンバー 37
出演 レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ブランシェット/ジョン・C・ライリー/アレック・ボールドウィン/ケイト・ベッキンゼール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


未来への道。それは夢を追い続ける者だけに開かれている。しかし、その道には狂気という地雷が無数に埋められていて、夢追い人の心を蝕んでいく。陰謀、挫折、孤独。夢のスケールが大きければ大きいほど変人扱いされ、周囲からういていく。だが、歴史はこうした狂気と天才が表裏一体となった人物が塗り替えてきたことも事実。底なしの人間不信と忍び寄る得体の知れない恐怖。これらのものに押しつぶされそうになりながらもなお前に進もうとするヒーローを、スコセッシは細部にいたるまで再現し、ディカプリオは繊細な感情のひとつひとつを表現している。


莫大な遺産を相続したハワード・ヒューズは壮大なスケールの映画「地獄の天使」を撮影、公開しハリウッド進出に成功する。そしてキャサリン・ヘップバーンと恋に落ちる。一方でパイロットとしても世界最速飛行を成功させたヒューズは航空業界に進出、TWA航空を買収する。第二次大戦中に巨大な輸送機の開発に手を付けるが終戦に間に合わず、そのことで聴聞会に召喚されるが何とか切り抜け、ついに巨大輸送機の試験飛行に成功する。


無尽蔵ともいえる資力こそがヒューズを正直な人間であらしめる。完璧な映画を作るために湯水のごとく制作費をつぎ込み、世界最速の飛行機を飛ばすための出資を惜しまない。後に上院議員の聴聞も受けたときも、金銭に対するクリーンさが身を救う。その清潔さは日常生活にもおよび、他人の触れたものに触れず血が出るまで石鹸で手を洗うという極度の潔癖症になってしまう。鋼鉄の意志の裏側にあるガラスの精神力。この両極端なアンバランスがヒューズを魅力あるキャラクターにしている。


ヒューズの目指す夢が一見荒唐無稽でもきちんと未来を見据えていたからこそスタッフはついてくる。データではなく直感。自らが先頭に立つ試行錯誤がはてしなく繰り返されて、やがて現実になる。そして直感が的中したときの驚き。あくなき未来への欲望。現代のベンチャー企業社長の成功物語にも似た経営哲学を見ているような爽快な気持ちになった。


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