こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クライシス・オブ・アメリカ

otello2005-04-08

クライシス・オブ・アメリカ THE MANCHURIAN CANDIDATE

ポイント ★★★
DATE 05/4/2
THEATER ユナイテッドシネマとしまえん
監督 ジョナサン・デミ
ナンバー 42
出演 デンゼル・ワシントン/リーブ・シュレイバー/メリル・ストリープ/キンバリー・エリス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


現実と妄想、認識と記憶。脳の組織と機能が解明されるにしたがって、あらゆる感覚や経験、自分の存在すらも神経細胞間の電気信号のやり取りに過ぎないといういことが科学的に証明される。そして自分の意識そのものに自信が持てなくなり、他人に操られるようになる。個人単位ではなく小さな集団で記憶を加工されたとき、それは大きな陰謀の時限爆弾となって社会に害毒をもたらす。同時に自由や民主主義の理想を声高に叫ぶ人間ほど、その心の奥に何かを隠しているというアメリカ社会の脆さをこの映画は鮮明にする。


湾岸戦争の後遺症で悪夢に苦しむマルコは、当時の自分の部下で政界に転じたレイモンドの元を訪れる。レイモンドは有力な母親の後押しでいまや副大統領候補、彼もまた同じ記憶障害に悩まされていることに気づく。戦争の英雄だったレイモンドが武勲を挙げた戦闘のことを思い出すたびに不安に陥るマルコは、やがて自分たちの記憶に手を加えられたという疑いを持つ。


これほどパワフルで饒舌なメリル・ストリープをはじめて見た。自分の息子を副大統領候補にするためには手段を選ばない辣腕政治家。権謀術数渦巻くワシントンで生き残るためにあらゆる手段を尽くし、押し出しの強さとテロに対する強硬姿勢で対立候補を叩きのめす。権力の魅力に取り付かれ、一方で自分の理想を実現するためには息子ですら駒のひとつとしてをコントロールしようとする。彼女が演じる、もはや正義の手が届かない巨大な信念を持った悪に成長した政治家は不気味だった。もう少しメリル・ストリープの出番を見たかった。


湾岸戦争の記憶はニセモノで真実は別のところにあることをマルコは気づく。しかし、そこにも二重のセイフティ機構が仕掛けてあり、記憶をいじられた者はあるキーワードで催眠状態に陥る。結局、FBIによって真実が明らかにされるのだが、その過程をまたFBIが隠蔽するという矛盾。人々が信じる本当の自由や民主主義などアメリカにはないということをこの映画は痛烈に皮肉っっている。


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