こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛の神、エロス

otello2005-05-04

愛の神、エロス EROS

ポイント ★★
DATE 05/4/28
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 ウォン・カーウァイ/スティーブン・ソダーバーグ/ミケランジェロ・アントニオーニ
ナンバー 54
出演 コン・リー/チャン・チェン/ロバート・ダウニーJr/アラン・アーキン/クリストファー・ブッフホルツ/レジーナ・ネムニ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


カーウァイの粘着質で湿度が高い想い、ソダ―バーグの人を食ったような洗練、アントニオーニの乾いたけれどくすぶっている情熱。ひとり約40分の持ち時間で3人の監督が描く男女のあり方は、作品に対する温度差が如実に出ていておもしろい。


ウォン・カーウァイが描く愛の世界は見習の仕立て屋と美しい娼婦の10数年にも及ぶ愛。娼婦への一途な思いを貫く若い仕立て屋が最後に彼女と結ばれようとした時に、すでに彼女の命は感染症で風前のともし火。仕立て屋の心理を絶妙のカメラワークで見せるテクニックはイマジネーションを刺激する。男女の仲を顔を映さずに腰と手の動きだけで表現したシーンは、カーウァイの職人芸と芸術の見事な融合だ。窒息しそうになるほどの息苦しい愛を、チャン・チェンは抑えた表情で饒舌に表現する


アントニオーニは冷え切った夫婦を通じて、人間の絆のもろさと再生の速さを語る。しかし、この作品には人間に対する深い洞察が乏しく、若い娘のハダカでごまかそうとしている。最後には中年に達した妻にまでハダカでダンスをさせるが、その意図は不明。実際には空っぽなのに何かありそうな雰囲気を装うだけの空疎な映像だった。


ソダ―バーグの第2話がいちばん肩の力が抜け、エスプリに富んでいて楽しめる。カウンセラーのもとを訪れた広告マンが夢の話をするのだが、患者が目を閉じて話をしているのをいいことに、カウンセラーは窓の外をずっと気にしている。それが何かは映らないのだが、アラン・アーキンのパフォーマンスでナンパをしていることは明らか。彼の不真面目な態度が患者にばれないかとハラハラさせてきながら、一方で患者の不思議な夢を再現するバカバカしさ。3人の巨匠のコンペは、あえて直球勝負をしなかったソダ―バーグの圧勝だった。


他の新作を見る