こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベルンの奇蹟

otello2005-05-18

ベルンの奇蹟 DAS WUNDER VON BERN

ポイント ★★*
DATE 05/5/13
THEATER シャンテ・シネ
監督 ゼーンケ・ヴォルトマン
ナンバー 59
出演 ルーイ・クラムロート/ペーター・ローマイヤー/ミルコ・ラング/サーシャ・ゲーペル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


敗戦の痛手からまだ立ち直っていない西ドイツ国民にとって、サッカーW杯優勝というのは自信を回復させ希望を抱けるようになった事件に違いない。ドイツ人なら誰でも知っている歴史だからこそ、その試合を再現するだけでなく、ソ連抑留から戻った退役兵の家族や新聞記者夫婦のエピソードを入れたのだろうが、効果はイマイチ。ばらばらのエピソードがラストに向かって収斂していくこともない。


1954年西ドイツの工業地帯に住むマティアスの元にソ連で抑留されていた父親が復員してくる。父は性格がひねくれ、家族とうまくいかない。やがてマティアスは憧れているサッカー選手・ラーンが出場するW杯スイス大会を見に行くために家出する。


ドイツ人にとってW杯優勝は歴史的な日といっても他国人にとっては取るに足らない出来事。ラーンも国民的な英雄だったのだろうが、その名を記憶している外国人はよほどのサッカー好き以外はいまい。それでもラーンという選手を中心に物語を構成していればもう少し映画に集中できたはず。新聞記者の痴話げんかなどまったく不要だし、マティアスと父親の葛藤も物語のピントをぼかすだけだ。それよりもサッカーの戦術的なことやハイテクスパイクの裏話のほうが膨らませる余地があったはずだ。


マティアス一家が敗戦で打ちひしがれた西ドイツの象徴であることは理解できる。この父親のボールコントロールを見ていると元サッカー選手なのだろうが、サッカーに夢中になる息子に辛くあたるのはなぜだろう。戦争と抑留生活が父親からサッカーを奪ったということは想像に難くないが、その理由を語らないと単なる意地悪オヤジにしか見えないではないか。負け犬として心を閉ざして敗戦後の人生を生きてきた父親に、現実を受け入れ前に進む道を示すことは戦後ドイツの歩みと重なるのだろう。しかし、それにしてもテーマをもう少し絞り込むべきだった。


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