こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エレニの旅

otello2005-05-25

エレニの旅 TO LIVADHI POU DHAKRISI

ポイント ★★★
DATE 05/5/19
THEATER シャンテ・シネ
監督 テオ・アンゲロプロス
ナンバー 62
出演 アレクサンドラ・アイディニ/ニコス・ブルサニディス/ヨルゴス・アルメニス/ヴァシリス・コロヴォス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


悠然とした時間の流れに身をゆだね、ロングショット・長回しにどっぷりと浸る。商業映画とはまったく違うアプローチで描かれたこの作品を味わうには相当な持久力が必要だ。確かに凝りに凝った美しい風景と耳に馴染む音楽は、その悲劇的なストーリーとは裏腹に心に安らぎを与えてくれる。しかし、あまりにも省略された物語は想像力で補うというレベルを遥かに超え、解説を読まないと理解できない。はたしてこれで映画を楽しめるのだろうか。


ロシア革命を逃れてギリシアに戻ってきた移民団の中にいた幼い少女・エレニは養父スピロスの実子・アレクシスの子を出産する。その後、スピロス彼女を後妻に娶ろうとするが、エレニはアレクシスと駆け落ち。アコーディオンの腕を生かしてアレクシスは楽団員になる。やがて2人は実子を引き取り、家族4人で暮らし始める。


ほとんどのシーンを屋外で撮影されているこの作品の美しい映像を撮るための忍耐力はすさまじい。村全体から羊が木に吊るされたカットや村全体が水没してしまうシーン、夫との別れの場面での赤い糸など、カメラは遠景でとらえているためにごまかしは効かない。ワンシーンごとに綿密なリハーサルが行われ人物の所作からカメラの動きまで厳格に決められたとおりに撮影していく。その労力と熱意はフィルムに結晶となって焼き付けられる。


しかし、それが一本の映画となったときに見る者を感動させるかどうかは別次元。確かに革命で孤児になった少女がはるか異国で数奇な運命をたどるが、ここまで表現に抑制が効いてしまうと感情的なインパクトが希薄。終盤で意識をなくしたエレニがうわごとで自分の身の上を語るシーンのみが彼女がたどった悲劇的な人生を明確にする。夫も2人の息子も戦死。それでも愛し合った記憶だけがエレニに生きる勇気を与える。もう少しでいいから感情に訴えるような劇的な演出が欲しかった。


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