こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミリオンダラー・ベイビー

otello2005-06-01

ミリオンダラー・ベイビー MILLION DOLLAR BABY

ポイント ★★★★★
DATE 05/5/28
THEATER 109シネマズ港北
監督 クリント・イーストウッド
ナンバー 65
出演 クリント・イーストウッド/ヒラリー・スワンク/モーガン・フリーマン/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛、友情、家族、孤独、闘い、後悔、そして生と死。この作品には物語を紡ぎだす要素が、いや人生のすべてが凝縮されている。年老いた男ともう若くない女。女はいまだに自分のただひとつの夢を諦めず男にすがる。そして結ばれた心と心の固い絆。愛や信頼といった言葉では言い尽くせない究極のラブストーリーだ。


ボクシングの名トレーナー・フランキーの元にマギーという女が弟子入りを志願する。女という理由でフランキーは断るが彼女の熱意に負け指導を引き受ける。マギーはめきめき頭角をあらわし連戦連勝、やがて世界タイトルに挑戦するまでに成長する。そして迎えた世界戦、マギーは相手の反則攻撃で頚椎を骨折、二度と立てない体になってしまう。


ヒラリー・スワンクの肉体からあふれ出すパワーが圧倒的なリアリティを醸し出す。ボクサーとしての肉体を作り技術やボクシング理論もきちんと習得した彼女の役作りは、筋トレばかりの「ロッキー」よりもはるかに現実的。生活面でも客の食べ残しを持ち帰るウエイトレスというきわめて貧しい環境で小銭をためながら強くなりたいと願う、もはや現代では失われてしまったようなハングリー精神の持ち主。スワンクは自分の可能性とトレーナーの言葉だけを信じる一途な女性を完璧に演じる。一方のイーストウッドも、誰よりも他人のことを思いやる人間なのにそれを素直に言葉や態度であらわせない偏屈な老人を好演。枯れた味わいのまなざしひとつで男の哀愁を表現する。そしてふたりは父娘のような固い関係になる。


相変わらず実の娘とは絶縁状態のフランキーは、全身麻痺になったマギーを献身的に介護する。しかし、ボクサーとしての希望を失ったマギーは沈みがちで、怠惰な家族とも縁を切る。残されたのはふたりだけの世界。ここでもフランキーは「だいじょうぶだ、きっとよくなる」とか「身体は不自由でも心は自由だ」などという甘いなぐさめの言葉などかけず、じっと見守る。神など信じていないくせにミサを欠かさない彼はここではっきりと神の不在を悟り、マギーの願う尊厳に手を貸す。そしてふたりは実の父娘を超えた永遠の愛と信頼で結ばれる。マギーの意志の強さ、フランキーの心の痛み。抑制の効いた演出と哀切な音楽が静謐な空間を生み出し、見るものの心に強烈な感銘と余韻を残す。まさに10年に1本の傑作だ。


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