こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラヴェンダーの咲く庭で

otello2005-06-10

ラヴェンダーの咲く庭で LADIES IN LAVENDER


ポイント ★★★
DATE 05/6/7
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 チャールズ・ダンス
ナンバー 68
出演 ジュディ・デンチ/マギー・スミス/ダニエル・ブリュール/ナターシャ・マケルホーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


恋をすると老婆でも心は少女のようになる。その相手が若くてハンサム、おまけに傷を負って助けてを求めている。しかも才能あるアーティスト。はにかんだりやきもちを焼いたり、ちょっとした彼の言動に胸をときめかせたり腹を立てたり。ほとんど男性経験がないと思われる女性が人生の晩年ではじめて感じる恋の高揚感をジュディ・デンチがリアルに演じている。


ジャネットとアーシュラ姉妹はイギリスの人里離れた海岸で隠棲生活をしている。ある日妹のジャネットは海岸に打ち上げられた外国人の青年を発見、自宅に運び込みケガの治療をする。アーシュラはアンドレアと名乗るこの青年の身の回りの世話をするうちに彼に思いを寄せるようになる。やがて回復したアンドレアは見事な腕前でヴァイオリンを弾き始める。


年齢を重ねた人間は自分よりはるかに若い人間に恋をすることが許されるのか、自分が恋愛感情を持って相手にも恋愛感情を期待することが許されるのかということをこの作品は問う。アーシュラだけでなくアンドレアの治療にあたった老医師も若い女性画家を思っている。この医師はアーシュラよりも積極的に自分の気持ちを画家にぶつけているが彼女からは相手にされない。人生の豊富な経験からかなわぬ恋は傷つくだけとわかっていても、好きにならずにいられない。そんな恋の喜びと悲しみ、老いのあきらめをしみじみと語る。もう手の届かない遠いところにいってしまったアンドレアの元を静かに去る老姉妹というラストシーン、彼女たちの残り少ない未来を考えると切ない思いが込み上げる。


ただ、アンドレアのキャラクターがほとんど描かれないのが不満に残る。第二次大戦直前、ドイツ語を話す謎の遭難者。しかも女性画家とドイツ語で話す。故国を政治的理由で追われ逃亡中に海に落ちたとか、実は記憶を失ったスパイだったとか肉付けする要素はいくらでもあるだろう。客船から転落したヴァオリニストというのではなく、アンドレアの過去にもう少し謎めいたところを持たせれば物語にもっと奥行きと深みが出たはずだ。


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