こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

50回目のファースト・キス

otello2005-06-20

50回目のファースト・キス 50 FIRST DATES

ポイント ★★*
DATE 05/3/18
THEATER ソニー・ピクチャーズ
監督 ピーター・シーガル
ナンバー 33
出演 アダム・サンドラー/ドリュー・バリモア/ロブ・シュナイダー/ショーン・アスティン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


新しい記憶が蓄積せず、思い出の中の時間は止まったまま。今日何があっても、明日にはすべて忘れている。そしてそのことを本人は気づいていない。たとえ真実を知っても次の日には白紙に戻る。この状態は不幸なのか幸せなのか。ヒロインを見守る人々は彼女を傷つけまいと幸せ芝居を続けるが、ヒロインは変わらない。同じ芝居を1年も続けている彼女の父と弟が限りなく悲しい。


ハワイのプレイボーイ・ヘンリーは、ある日地元のルーシーという若い女性に出会い意気投合する。しかし、次の日に会いに行くとルーシーはヘンリーを覚えていない。ルーシーは事故で脳に障害を負い、記憶が一日しか持たないのだ。そんなルーシーにヘンリーは本気で恋に落ち、毎日彼女の元に通っては新しい出会いを演出する。


ルーシーの家族が持つ彼女へのいたわりがこの作品を悲しいコメディにする。もはや回復は望めない。ならばせめて幸せな気分を味あわせてやろうというのが肉親の情だ。しかし、ヘンリーに会った日だけルーシーは歌を口ずさむ。ルーシーの心に変化があらわれたしるし。それでもやはり記憶障害は改善しない。その堂々巡りが果てしなく続く。つまりこの作品はルーシーを知ることで、ヘンリーが変わっていく過程こそ描きたかったのだ。女性に対していい加減だった男が、ルーシーを知ってストーカーのごとく付きまとう。それは彼が真実の愛に目覚めたというよりも、自分が本当に人を愛せる心を持っているかどうか自らを試しているかのようだ。


ヘンリーはずっと自分が愛や情熱を捧げるだけの価値がある女性を探していたのではないだろうか。そこに現れた「記憶が1日しか持たない女性」。もはや自分探しなどできないルーシーを使って自分探しをするヘンリーにはやはりどこか親しみを持てない。そしてラスト、アラスカの海上に浮かぶヨットで目覚めたルーシーの隣には小さな女の子がいる。幸せに満ちたこの光景、子供ができたことを毎日ルーシーに説明しなければならない上に、そういう母親に育てられる娘の複雑な感情といったその裏の意味を考えるととても残酷な気がしてならない。


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