こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヴェラ・ドレイク 

otello2005-07-22

ヴェラ・ドレイク VERA DRAKE


ポイント ★★★*
DATE 05/7/20
THEATER 銀座テアトルシネマ
監督 マイク・リー
ナンバー 88
出演 イメルダ・スタウントン/フィル・デイビス/ダニエル・メイズ/アレックス・ケリー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


家族を愛し、近隣の人の面倒を見て、家政婦としての勤務先での評判も良い。誰からも愛され頼りにされるヒロインは、貧しい女性を助けるために無報酬で非合法な中絶手術をする。そんな愛と善意に満ちた人生を送ってきたはずのヒロインの人生に思いがけない事態が起きたとき、周りの人間はどういう対応をするか。善人として生きた人間が法の下にその価値を厳しく問われるとき、人々は無力になる。それでも家族の愛があればまたやり直すことができる。リアリズムに徹した演出はヒロインを冷たく突き放す。だからこそ余計に、そこに描かれた人情の機微が温かさをかもし出す。


家政婦と主婦業を両立させ家族にも恵まれたヴェラは、家族には秘密で貧しい女性たちに中絶を施している。誰からも慕われるヴェラは中絶を人助けと信じて疑わず、20年近くも請われるままに子宮に石鹸水を注入するという原始的な方法で処置を続けている。そんな時、処置を施した一人の容態が悪化し病院に運び込まれ、ヤミ中絶の事実が警察の知るところとなる。


貧しい中でも互いに助け合い、前向きに生きようとする人々。マイク・リーは徹底して大げさな感情表現を避け、俳優たちに市井の生活人を演じさせる。特にヴェラを演じたイメルダ・スタウントンを撮る時はアップを多用し、彼女の繊細な感情を浮き彫りにする。いとしい妻、やさしい母、親切な隣人であったヴェラが警官の前で見せる不安と、自分が人生で築き上げてきたものが音を立てて崩れる時の悲しみと後悔と絶望が入り混じった表情が忘れられない。


1950年当時の英国法は堕胎に厳しく、ヴェラは実刑判決を受ける。そんな中でも夫と娘は彼女を赦し、反発していた息子も彼女の行為を理解する。刑務所で静かに刑期を務めようとするヴェラと彼女の帰りを待つ家族。救いのない展開の中で最後に温かい気持ちにさせてくれるラストシーンに胸を打たれた。


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