こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ノロイ

otello2005-08-19

ノロイ

ポイント ★★★★
DATE 05/7/4
THEATER 映画美学校
監督 白石晃士
ナンバー 81
出演 小林雅文/松本まりか/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


虚実皮膜の間をこれほどまでに薄くした作品に初めて出会った。撮影は1台のハンディカメラにのみ行われ、レポーターと共に対象に迫っていく。時として画面は揺れピントはぶれる。しかしそれが恐るべきリアリティを生み、レポーターが見て体験する恐怖がそのままスクリーンを通して伝染する。恐怖の連鎖は最後まで勢いを失うことなく、背筋を蛇が這うような感触が終映後もしつこく付きまとう。ただ森の中をさまようだけの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を凌駕するできばえだ。


怪奇実話作家の小林は新作ビデオの発売直前に自宅が焼け、妻が焼死。自身も行方不明になる。ビデオに収められていたのは「かぐたば」と呼ばれる長野県のダムに水没した村に伝わる厄払いの儀式に憑りつかれた女に呪い殺された人々の生前の姿だった。小林が取材をした人々は次々と命を落とし、女の怨念は小林の身にも迫ってくる。


映像から作為的な表現を一切廃しドキュメンタリータッチに徹する。その一方、映像の端やカーテンの隙間に幽霊のような影を挿入したり、突然乱れたディスプレイにどくろの山が映っていたりする。それらの映像がまるで偶然カメラに収められたかのような演出。これが創作ではなく本当に起きたことのような説得力を持つ。さらに霊感タレント、学者、郷土史研究家など実在の人物を登場させてディテールを積み重ねることで、報道番組の硬派な特集のようなタッチで迫ってくる。


本来ならカットされるようなシーンもあえて使うことで冗長になるきらいは否めない。それでもそのまだるっこさが、かえって素人投稿ビデオのようなハプニング性を帯びる。主人公がじっくりと呪いの本質を追い詰める手法、そしてその過程で明らかになってくる古来の因習。あくまでジャーナリストとしての姿勢を保持したまま怨念という科学的な理解の範疇を超えた対象物へのアプローチ。あらゆるものが作為が見えないように演出された冷徹なカメラの目が、この作品を優れた娯楽に昇華している。


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