こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハッカビーズ

otello2005-08-29

ハッカビーズ I HEART HUCKABEES


ポイント ★★
DATE 05/8/20
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 デビッド・O・ラッセル
ナンバー 101
出演 ジェイソン・シュワルツマン/ダスティン・ホフマン/イザベル・ユペール/リリー・トムリン/ジュード・ロウ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


本当の自分とは抑えていた鬱憤を解き放ち、欲望のままに生きることなのか。だが、自分の目標を達成するという欲望を実現させるためには多大なストレスに耐える必要があるだろう。環境保護にしても会社での昇進にしても、目標を達成するには何らかの犠牲はつきもの。その我慢を「自己への抑圧」ととらえるのは間違ったリベラリズム。「ゆとり教育」の名の下に辛抱や忍耐を知らずに育った子供がニートになる構造と同様、この映画の「心を解き放ちありのままの自分を受け入れる」という考え方は甘えの構造以外のなにものでもない。


環境保護活動家・アルバートはハッカビーズというスーパーの建築計画に反対しているが、その熱意とは逆に運動はイマイチ。偶然知った「哲学探偵」の元を訪れ、自分の存在について探ってもらう。一方、ハッカビーズの広報部員・ブラッドはアルバートの組織を丸め込み、建築計画を軌道に乗せる。


登場人物は人生において一番大切なもの、もっと突き詰めれば人生そのものの答えを探している。社会的な成功を手に入れた者も手にいいれられない者も、皆等しく心の中で「これが本当の自分ではない」という思いをくすぶりつづけさせている。哲学探偵とフランス女性が別の方法でそれぞれ彼らの「本当の自分さがし」を手伝うのだが、その結果は秩序の破壊に他ならない。ただ漫然と暮らすだけならそれでもよいが、少なくとも意義のある人生にしたいのなら、努力や我慢はつきもの。その観点がこの作品には欠落している。


登場人物は多岐にわたり、それぞれのエピソードが平行して語られる上にまとまりがゆるいためとても散漫。きちんと主人公を定め、彼の視点で世の中の価値観がいかに足場の定まらないものであるかを描かないと、安手の食べ放題ビュッフェのように「いろいろ種類はあるがどれもイマイチ」という印象しか残らない。アイデアはよかったが演出にもう少し都会的センスがあれば楽しめたのだが。


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