こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

殴者

殴者

ポイント ★★*
DATE 05/7/26
THEATER 映画美学校
監督 須永秀明
ナンバー 91
出演 玉木宏/水川あさみ/陣内孝則/虎牙光輝
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


桜庭、シウバ、高山といった現役の格闘家によるファイトシーンが売り物なのだが、あまりにもリアルなファイトは逆にどこか物足りない。グラウンドでの組み手など、やはり映画としては動きが乏しくなり映像のスピードが鈍ってしまうのだ。かといってあまりにも作り物っぽくすると格闘家たちがついていけない。そのあたりの匙加減が難しいところなのだが、格闘ファン向けの映画としてはリアルにこだわらなければならなかったのだろう。ただ、映画としてはテンポが鈍ってしまった。


明治初期、西洋人の屋敷で敵対するヤクザ組織同士が抗争にカタをつけるためにお抱えの腕自慢同士を素手で戦わせていた。戦うのは殴者と呼ばれる日本人とイギリス船のボクサーたち。3組の対決が始まる一方で、この試合を仕組んだ暗雷という男の壮絶な人生と禁じられた愛が語られる。暗雷は幼児期にピストル愛次郎というヤクザに拾われ育てられてきたが、愛次郎は暗雷にとって父の仇でもあった。


冒頭の満月に象徴されるように、日の目を見ない世界で男の美学を貫こうという物語にふさわしい見事な映像美だ。ライティングが素晴らしく、陰影の濃いノワールな雰囲気を漂わせる。しかし、そのセンスを見せる場面は少ない。殴者として生きるしかない男と親分の影として生きるしかない男の悲しみのようなものは、映像からはにじみ出ても俳優たちからは感じられないのだ。結果として、愛次郎を演じた陣内孝則と敵のボスを演じた篠井英介だけが過剰な演技で物語から突出する。


結局、暗雷が幼馴染の遊女と駆け落ちするために愛次郎を裏切り、試合場は修羅場となる。暗雷は遊女と逃げるがほどなく破滅する。ハッピーエンドにはなりえないのは理解できるがもう少しマシな結末はなかったのだろうか。若い二人を演じた玉木宏水川あさみに人間の心の暗部を表現する演技力があれば、この作品の持つ哀しみも奥行きの深いものになっただろう。


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