こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

真夜中のピアニスト

otello2005-10-18

真夜中のピアニスト DE BATTRE MON COEUR S'EST ARRETE

ポイント ★★
DATE 05/8/5
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 ジャック・オディアール
ナンバー 96
出演 ロマン・デュリス/ニール・アルストラップ/リン・タン・ファン/オーレ・アッティカ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分勝手で粗暴な主人公。彼は友人に腹を立て、父親に愛想を尽かし、自分の人生に苛立っている。しかし、その現実からは逃れる術がなく、さらに悪循環を繰り返す。そんな時、忘れていた夢を追いかけるチャンスが舞い降りる。ところがこの映画は現実のパートと夢を追うパートを同じ手法で描くという過ちを犯したため、主人公同様、映画自体も自分勝手で粗暴な出来栄えになってしまった。チャンスをくれ協力してくれた周りの人間に少しの感謝の気持ちも表現できない主人公同様、この映画も見に来た観客に対して一分の謝意も見せない。


不動産ブローカーのトムはかなり暴力的な仕事も平気でこなすやり手だが、そんな日常に嫌気がさしている。同業の父親の手助けも時折するが、あまり関わろうとしない。そんな時、ピアニストだった死んだ母親のマネージャーと再会し、オーディションを受ける約束をする。翌日からピアノの練習を再開し、中国人女性ピアニストのもとにレッスンに通うようになる。


そもそもトムはピアノを再開したことで、何をしようと思ったのか。最初に訪れた音楽学校の先生に問い質されたように目標が見えない。ただ旧知のマネージャーにオーディションを受けろと勧められたからピアノを習いたいとはとても大人の意思とは思えないし、中国人にレッスンを受けるようになってからも仕事の片手間で音楽をやっているようにしか見えない。本当にプロを目指すならばすべてを犠牲にしてピアノに打ち込むくらいの心構えが必要だろう。それなのに相変わらず父親の仕事を手伝ったり友人の妻に手を出したりしている。


音楽を甘く見るのにも程がある。結局、プロの夢は諦めいつの間にか中国人ピアニストとくっついている。父親を殺したロシア人に復讐しようともするが、止めを刺さないところを見ると少しは成長したようだ。だがそれも音楽を通して人間的に成長したのではなく、中国人との仲を優先させたに過ぎない。音楽に対する熱い思いのない人間を主人公に音楽映画を作ってもやはり魅力には乏しい。


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