こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

私の頭の中の消しゴム

otello2005-10-26

私の頭の中の消しゴム

ポイント ★★*
DATE 05/10/22
THEATER 109シネマズ木場
監督 イ・ジェハン
ナンバー 132
出演 チョン・ウソン/ソン・イェジン/ペク・チョンハク/イ・ソンジン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分の中の記憶が消えていくのを自覚することと、愛する人から自分の記憶が消えていくのを見ているのはどちらが辛いだろう。相手を愛せるのは相手もまた自分を愛している事がわかっているから。なのに一方的に相手は自分のことを忘れていく。だが、この映画は忘れられることの哀しみはよく描けているのに、忘れていく恐怖があまり描かれていない。自分の人格が崩壊していく過程をもう少し主観的に描いていれば、作品にもっと奥行きが出たはずだ。


不倫相手からフラれたスジンはコンビニでチョルスという建設労働者と出会う。仕事先のリフォームでチョルスと再会したスジンは彼に惹かれ、心を閉ざしていたチョルスもスジンの明るさに好意を持つ。やがて2人は結婚するが、スジンを若年性アルツハイマー症が襲う。


最初はちょっとした物忘れくらいに思っていたことが、進行性のアルツハイマーと知った時の苦しみはどれほどのものだろう。自分の記憶が薄れて行き、やがて自分自身がわからなくなる。それが近い未来に現実となり、もはやそうした恐怖や苦悩自体も認識できなくなる。その過程をスジン自身の主観で描けば映画の持つテーマが重く訴えてくるのに、なぜか後半はチョルスの目から見たスジンの姿に終始している。


チョルスもまたスジンと愛し合った記憶を大切にすることで彼女への愛を貫くのだが、彼女と運命をともにする覚悟に欠ける。スジンが壊れていくことで自分自身が否定されるような気分になるの気持ちは理解できるが、それよりもスジンの身の回りの世話といった現実的なことを通して愛する人への気持ちを表現するべきだろう。たとえばスジンの下の世話をチョルスがする。スジンに恥ずかしがる様子はなく、そんなスジンにチョルスうんざりしながらも自分が選んだ愛を貫くというような構図。美男美女俳優がそこまで演じてこそ本当の感動が得られるのに、この作品は奇麗事のラブストーリーの域を出ていない。


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