こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ランド・オブ・プレンティ

otello2005-10-28

ランド・オブ・プレンティ LAND OF PLENTY


ポイント ★★
DATE 05/10/26
THEATER シネカノン有楽町
監督 ヴィム・ヴェンダース
ナンバー 134
出演 ミシェル・ウィリアムズ/ジョン・ディール/リチャード・エドソン/ウェンデル・ピアース
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


9/11テロ以来、愛する母国をテロリストから守ろうと使命感を空回りさせているこの映画の主人公のような市民はかなりの数に及んでいるのだろう。アラブ系と見ればテロリストと疑ってかかり、目の敵にする。あらゆる行動が悪意に見え、もはや被害妄想。そして彼らを追う執念は偏執的。ビデをカメラで監視し、対象と自分の行動を記録し、仲間にバックアップを頼むその姿はこっけいですらある。これが他国から見た米国の姿なのだと、ヴェンダース監督はブッシュ大統領とその政策を支持する国民に訴えている。


唯一の身寄りであるポールを探してLAに来たラナは伝道所で働いていた。一方元軍人で愛国者のポールは今日もひとりでテロリストと思しきアラブ人を尾行している。ある日、ポールが尾行していたアラブ人が通り魔に射殺されとことでポールとラナは出会い、アラブ人の遺体を彼の兄に返すためにポールのバンで旅に出る。ところが死んだアラブ人は何の犯罪歴もないパキスタン人だった。


旅を続ける過程で自分自身を再発見し、世界を見つめ直す。しかし、ヴェンダースのその手法は80年代からまったく進歩しておらず、現代の尺度で見ると退屈極まりない。パキスタン人をテロリストと決め付け尾行するポールのディテールを時間をかけて描いているのだが、間延びした映像が延々と繰り返されるだけ。どこか対象から心持ち距離をおいたカメラワークもここでは退屈を助長しているだけだ。


結局、テロリストなどおらず、ラナが持ってきたポールの弟からの家族の絆を訴える手紙が読み上げられる。その後、2人はグラウンド・ゼロを見学するが、ポールはあまりのそっけなさに落胆する。このラストシーンで、ヴェンダースはテロの脅威など、所詮は米国政府が作り上げた幻影だと断言する。しかし、今現在も世界のどこかでテロリストは爆弾を爆発させているのだ。ヴェンダースの世界への見識はあまりにも甘いといわざるを得ない。


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