こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

春の雪

otello2005-11-02

春の雪

ポイント ★★
DATE 05/10/29
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 行定勲
ナンバー 135
出演 妻夫木聡/竹内結子/大楠道代/榎木孝明
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


緑濃い木々、清流の透明感、はかなげに舞う雪、そして年季の入った建物。耽美的な三島由紀夫の世界を見事に再現したカメラワークと小道具大道具ロケ地といったスタッフの努力は結実している。しかし、いかに物語の背景描写が優れていても、肝心の主人公たちに魅力が薄い。というより演出家が俳優たちの持ち味を引き出せていないのが致命的。はたしてスクリーンで繰り広げられるリアリティに乏しい上に、美しいがぬる〜いドラマは強烈な睡魔を誘う。


伯爵家の令嬢・聡子と侯爵家の子息・清顕は幼なじみでお互いに好意を抱いていたが、なかなかかみ合わない。やがて聡子が皇族と婚約したことで、清顕は自分の気持ちに気づき、聡子に言い寄る。聡子も清顕を受け入れ、ふたりは道ならぬ恋に落ちて密会を重ねる。それは、発覚すれば本人たちのみならず双方の一族全員が破滅する危険な恋だった。


この作品は、若者らしいほとばしるような感情や抑え切れない恋心といった激情とは無縁だ。あくまで寡黙な中で相手への気持ちを膨らませ、会えない時間に悶々とする。大正時代日本人の美学のようなものなのだろうが、それを演じなければならない俳優にそこまでの微妙で繊細な表現力が備わっていない。また、当時の貴族の結婚に関する掟などもわかりやすく解説するセリフなどを挿入してくれれば納得がいくのだが、そういう気も利かない。禁じられた恋だからこそ身を焦がし命に代えても成就させようという気持ちをどうしてもっとストレートに表現しないのだろうか。「ロミオとジュリエット」のように素直な心を美しい比喩に置き換えれば印象は違っていたはず。


結局、大正時代という中途半端に古い過去が現代では現実感を持ち得ないということだろうか。自動車や電話はまだ珍しく、ほとんどが手紙で通信していた時代。好きな相手の気持ちを確かめるにもいちいち手紙を書き返事を待つ。その間のタイムラグ、そして返事も裏読みできるような内容だったりする。恋をするにも煩雑な手順を踏まなければならず、その分駆け引きや打算も生じる。いくら人気俳優同士が演じる純愛でも、そのまどろっこしさについて行くには相当な忍耐が必要だ。


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