こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エリザベスタウン

otello2005-11-14

エリザベスタウン ELIZABETHTOWN

ポイント ★★*
DATE 05/10/17
THEATER UIP
監督 キャメロン・クロウ
ナンバー 130
出演 オーランド・ブルーム/キルスティン・ダンスト/スーザン・サランドン/アレック・ボールドウィン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


どれだけカネを稼ぐかが人間を量る唯一の尺度であるビジネスの世界から、人と人のつながりこそがあらゆるものに優先する田舎町へ。都会で負け組となった人間でもやり直すことが許される人々の温かさ身にしみる。誰もが誰もを知っている小さな街は窮屈な一方で人情に満ち、競争に疲れ、敗れた者の心を癒してくれる。


会社に10億ドルの損失を与え失業したドリューは父の葬儀に出席するためにエリザベスタウンという片田舎の街に向かう。途中、飛行機で知り合ったクレアというスッチーと仲良くなり、街についてから彼女に電話する。すっかり意気投合したふたりはお互いが「穴埋め」であると承知しながらデートを重ねる。


ドリューが体験する成功の絶頂から転落した者が同僚の視線に耐える様子がリアルだ。羨望から哀れみ、そして自分じゃなくて良かったという安堵。ドリューは視線の意味を敏感に感じ取りながら「大丈夫」と言い続ける。まるで自分自身に言い聞かせるように。もはやとり返しのつかない大失敗、諦めと絶望。それでも生きていかなければならない人間の宿命。経済活動において勝ち組を目指したほとんどのものがたどる末路が皮膚感覚となって突き刺さる。


それでも、父のふるさとで過ごしたたった6日間でドリューが再生すると言うのは甘すぎるのではないだろうか。クレアという女性の存在も謎だ。長く苦しんだ挙句やっと現れた救いの天使というような設定ならば理解できるが、どん底に落ちたその日に現れるのでは、ドリューが自分の人生を見つめなおす暇もないではないか。自分の失敗をきちんと清算させて初めて再スタートを切ることが許されるのだ。これでは「失敗しても誰かが助けてくれるだろう」という世間を舐めた男にドリューはなってしまう。田舎町の人間同士のふれあいに競争に疲れた若者が人生を見つめなおすという着眼点は良かったのに、クレアが物語にかかわってくる過程があまりにも不自然で納得いかなかった。


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