こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

灯台守の恋

otello2005-11-16

灯台守の恋 L'EQUIPIER

ポイント ★★★★
DATE 05/11/10
THEATER シャンテ
監督 フィリップ・リオレ
ナンバー 141
出演 サンドリーヌ・ボネール/フィリップ・トレトン/グレゴリ・デランジェール/エミリー・デュケンヌ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


年老いた母が娘に明かした一生に一度あるかないかというような濃密な恋。それはたとえそれが不倫であっても、閉鎖的な社会で暮らす日常につかの間の夢を見せてくれた男への大切な思いだ。一方で大自然との厳しい闘いが強いられる仕事の中で育んだ男同士の友情が美しい。よそ者に対して心を開いてくれた男の妻に魅かれるという設定は、必然的に破局がやってくることを予期させるが、そのあたりの引き際のよさもまた余韻をふんだんに残し、繊細な思い出として昇華する。


僻地の村に燈台守としてやってきたアントワーヌは村人の排他的な態度に悩まされるが、女たちにはすぐに人気者になる。それが余計に村の男の反感を買うが、唯一仕事上のパートナー・イヴォンだけは彼を受け容れる。しかし、アントワーヌはいつしかイヴォンの美しい妻・マベと恋に落ちてしまう。


ふとした瞬間にアントワーヌとマベの視線が絡まりあい、言葉以上に情熱的な会話が交わされる。そのなまめかしさと奥ゆかしさ。お互いの秘めた感情の高ぶりを抑えつつ、目が合った刹那に思いが洪水のようにあふれ出す。しかし、それは決して他人には悟られてはならない感情だ。心にも体にも傷を負った男と夫に愛されても子供ができない人妻の大人同士のロマンスは、花火大会の夜に結実する。


数発の花火を盗んだイヴォンは灯台の先端から花火を打ち上げるのだ。これはイヴォンからアントワーヌへのメッセージだ。灯台は男性器に、打ち上げられた花火は射精のメタファー。イヴォンは不妊症である自分に代わり、アントワーヌにマベを妊娠させることを望んだのだ。イヴォンはアントワーヌの人柄を見抜き、彼と自分の妻の間にできた子供なら実の子として育てられる、そう考えたのだろう。二枚目の流れ者と美しい人妻の不倫愛というだけでなく、不妊に悩む夫の子供をほしがる気持ちの裏まで描くところが奥深い。知っていて知らぬフリをする。知らぬフリをしていることをわかっていて気づかぬフリをする。まさに成熟した大人の恋愛映画だ。


↓メルマガ登録はこちらから↓