こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

親切なクムジャさん

otello2005-11-18

親切なクムジャさん


ポイント ★★*
DATE 05/10/13
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 パク・チャヌク
ナンバー 128
出演 イ・ヨンエ/チェ・ミンシク/クォン・イェヨン/キム・シフ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


復讐という甘美な響きに酔いしれるかのようなほほ笑み。慈しむような優しさの奥に秘めた冷徹で残酷な本性。人間の持つ天使と悪魔の二面性をアイメイクでイ・ヨンエは演じ分ける。そこには怒りや憎しみといった感情よりも、なすべきことをなすだけという意志の強さだけが際立つ。さらに母ゆえの強さをあわせ持った彼女は、自分の人生を奪った人間を追いつめていく。ただ、その後に残るのはむなしさのみ。それがわかっていても行動を起こさなければならない時がある。


子供を誘拐・殺害した罪で13年の服役を終えたクムジャは、自分に罪を着せた男に復讐するための準備を始める。彼女はムショ時代同房だった元受刑者たちを訪ね、次々と協力を求める。服役中「親切なクムジャさん」と呼ばれ受刑者仲間から慕われていた彼女にみな力を貸す一方、オーストラリアに養子に出されていた自分の娘を取り戻す。


女性犯罪者の陰には常に男の姿がちらつく。クムジャだけでなく、同房者はみな男がらみの愛憎から事件を起こしている。夫婦強盗以外のここにいる女は加害者でありながら被害者でもある。そこには儒教思想の元、数千年にわたって権利を制限されてきた女性の歴史が集約されているようだ。だからこそクムジャは利用価値のある男はそばにおいても、決して心を許さない。


しかし、どうしてクムジャは出所したとたんに親切をやめたのだろうか。復讐という自分の決意を明らかにするためなのかもしれないが、それでも「親切の仮面」を被っているほうが行動しやすいのではないか。服役中、10年以上にもわたって協力者を育て上げてきたのだから彼女たちにクムジャが変わったことを知られないほうがいいはずだ。また、児童誘拐殺人の真犯人でないのだから子供の親の前で指詰めする必要もないはずだし、足手まといになる子供をオーストラリアから連れて帰るのも腑に落ちない。何より、クムジャの心の闇が余りよく描けていなかった、というよりたいした闇ではなかったということか。


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