こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Jの悲劇

otello2005-12-02

Jの悲劇 ENDURING LOVE

ポイント ★★★
DATE 05/11/25
THEATER シャンテ・シネ
監督 ロジャー・ミッチェル
ナンバー 146
出演 ダニエル・クレイグ/サマンサ・モートン/リス・エバンス/ビル・ナイ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


恋愛は単なる科学的作用と言い切る作家に対して、出会いに運命的なつながりを感じる男。どちらも相手を好きになるという恋愛の感情的な高ぶりを無視し、自分の考えだけを相手にぶつける。やがて男のストーカー行為に人生を狂わされた作家も狂気に蝕まれていく。相手が出すあらゆるサインを自分への愛と解釈するストーカーの行動原理と、精神的にも追い詰められていく作家の心理を象徴するようなカメラワークが秀逸だ。何を言っても理屈が通じない相手に付きまとわれる恐ろしさがリアルに描かれている。


ジョーとクレアはピクニックの最中に気球の事故に遭遇するが、結局何も出来ず医師がひとり犬死する。その事件に心を痛めていたジョーのもとに事故のときに一緒にいたジェッドという男から連絡があり、気球の件について話し合いたいという。ジョーはジェッドを冷たくあしらうが、ジェッドはジョーに対して愛を感じ、ジョーに付きまとう。


自分の行動を監視され、行く先々でストーカーと出くわす不快感。やがてそれは怒りに変わり恐怖と背中合わせになる。ジェッドはジョーがカーテンを開け閉めする行為を愛と解釈し、ジョーに愛を迫るシーンには思わず鳥肌が立つ。自分に対しては完全に頭がおかしいのに、世間とはうまく折り合っている。そんな狂気に満ちた男をリス・エバンスがたくみに演じていた。


ただ、ジェッドの正体がありきたりのストーカーだったのが拍子抜けだ。恋愛を科学的作用と言い切るジョーは本当は運命的な出会いや一目ぼれに憧れているが何らかのトラウマがそれを否定していて、ジェッドはジョーのそんな深層心理を具現化した象徴である、という解釈が成り立つくらいの説得力がプロットに必要だ。さもなければ、気球の事故は単なる物語の導入部ではあっても、物語の深層やテーマのメタファーとしての意味が薄いのではないか。美しくスリリングなシーンだけに、もう少しジョーとジェッドの関係性の伏線として生かすべきだった。


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