こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

輪廻

otello2006-01-09

輪廻


ポイント ★★
DATE 06/1/7
THEATER 平和島シネマサンシャイン
監督 清水崇
ナンバー 3
出演 優香/椎名桔平/香里奈/杉本哲太
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


カメラワークから編集・サウンドデザインまで、清水崇監督は観客を怖がらせる術を心得ている。青ざめ冷気を帯びた映像のなかで展開する血の気のない顔をした少女や闇に浮かび上がる死者の顔、突然のフラッシュバックで表現される記憶の断片など、観客の緊張を頂点にまで高めておいて霊気を爆発させるタイミングはこの作品でも健在。しかし、ストーリーは相変わらずお粗末で説得力に乏しく、終盤はホラーというより苦笑をもらしてしまう。


映画監督の松村は35年前に起きた大量殺人事件を題材にした新作ホラー映画「記憶」を制作中。主演に選ばれた渚は撮影が進むにつれ少女の亡霊を見るようになり、やがて前世の記憶が少しずつよみがえってくる。そして彼女は徐々に精神のバランスを崩していく。


前世で悲惨な死に方をしたからといって現世で同じような目にあうとか、前世で殺人者だったからといって現世でその業を背負わされるなどというばかげた矛盾には作者も当然気づいているだろう。しかも「記憶」という映画を制作することが引き金になって、当時の事件で命を落とした人間全員がサラリーマンやトラック運転手・霊感少女といった現世で生きる自分の生まれ変わりに悪意を持つというのも変だ。それは、ただ絶叫シーンを撮るために無理やり考えた屁理屈に過ぎない。怨霊が現れる理由が希薄なために表現テクニック上の恐怖だけが上滑りしていく。


そしてヒロインが廃墟となったホテルの中で惨劇の真実を見るシーンはもはやコメディにしか見えない。彼女の周りに登場するのは皆生気の失せた顔をしたゾンビばかり。意思のない目と関節がぎこちなく動かしながら歩く様子は、「怖い」というより失笑しか沸いてこない。劇中の映画監督が言うように、登場人物にリアルな体験や感情を演じさせるためには、物語自体にも説得力が必要なはず。もう少し脚本の段階からストーリーを作りこまないと、清水崇監督作品というだけでは、いい加減飽きられるだろう。