こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

歓びを歌にのせて

otello2006-01-13

歓びを歌にのせて

ポイント ★★★
DATE 06/1/8
THEATER チネチッタ
監督 ケイ・ポラック
ナンバー 4
出演 ミカエル・ニュクビスト/フリーダ・ハルグレン/ヘレン・ヒョホルム/レナート・ヤーケル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


それぞれ生活に問題を抱えた人々が、外部から来た異分子に刺激されながらもひとつの目標に向かって団結し、さまざまな障害を乗り越えた上で新たな人生の歓びを見つけステップを踏み出す。再生というテーマ、音楽という題材はありふれている。しかし、スウェーデン式の時の流れが物語をより濃密なものに仕上げ、人間の声帯から発せられる繊細な旋律とハーモニーが馥郁たる時間を演出する。それはまるでこの作品のヒロインの豊満な肉体のようにエロチックでおおらかだ。


指揮者として世界的な成功を収めたダニエルは、体調不良のため生まれ故郷のスウェーデンの寒村で療養する。そこで聖歌隊の指揮を頼まれ引き受ける。アマチュア相手に最初は苛立つが、ダニエルは音楽の楽しみ方を再発見する。一方メンバーの方も、失恋、DV、夫婦不和などの問題を抱えていた。


ダニエルの指導法がユニークだ。心の内なる音楽を発見させるためにあえて音楽から離れ、床に寝転がったりステップを踏んだり。そこから体の奥から湧き上がってくる音を感じさせようという彼の狙いに、一人また一人とコーラス隊のメンバーも音の直感を得る。メロディに歌詞を乗せることはできなくても、体に合ったひとつの音を出し続けることならできる。ダニエルはそれを見事に編成し、心揺さぶるアートにまで昇華していく。


しかし、ドラマの部分は音楽と比べ低調だ。戒律で村人を縛ろうとする牧師や、やたら嫉妬深いオバサンやDV夫、いつも一言多いでしゃばり男など、「いかにも」な人物配置だ。ダニエルと恋に落ちるレナなどはどう見ても尻軽女なのに、あるところでは急に保守的になる。愛と性は別物というセックス先進国風の考え方なのだろうか。また、クライマックスのコンクール直前に、ダニエルはなぜか自転車で街をふらつき、急に思い出してコンクール会場に戻ったものの心臓発作で息絶える。「指揮者がいなくても心をひとつにできる」ことは証明され、和声の連鎖がホールを満たしていくが、ダニエルの行動は理解できなかった。


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