こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミュンヘン

otello2006-02-06

ミュンヘン MUNICH


ポイント ★★★
DATE 06/2/4
THEATER ユナイテッドシネマとしまえん
監督 スティーブン・スピルバーグ
ナンバー 19
出演 エリック・バナ/ジェフリー・ラッシュ/ダニエル・クレイグ/マチュー・カソビッツ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


彩度を落とし、緊迫感に満ち溢れた映像は、記憶という過去にさいなまれる主人公の心情を雄弁に物語る。たとえ同胞の命を脅かす敵であっても、殺さなければならない苦悩。そして他人の命を奪った者は自分もまた命を狙われる運命にあるという当然の帰結。スピルバーグは、国家に雇われ、しかし雇われたという事実は存在しない殺し屋の姿を通じて、普通の若者が殺人兵器に変貌する過程を描きながら、それでも良心を捨てきれない人間の弱さを丹念に描ききる。


ミュンヘン五輪で選手村を武力占拠しイスラエル選手団を虐殺したパレスチナゲリラ。事件の主な首謀者11人に報復するためにイスラエル政府はアヴナーという若者をリーダーに5人組の暗殺団を組織する。アヴナーたちは着実に暗殺を実行していくが、徐々に任務に対して疑問を感じ始める。


尾行、張り込み、そして仕掛け。現代のようにハイテク機器のなかった時代、すべてがマンパワーに頼っていた。資金以外の支援はなく、すべてを5人の手作業でこなさなければならない。爆弾による殺害という派手な犯行の裏では地味な作業が果てしなく続く。ただ、車の中でターゲットを待ち続けたり、1台の車で尾行したりするなどという方法は、相手が警戒心を持った人間ならすぐに気づかれるはず。また、女殺し屋のところに仲間の復讐に行ったときも、彼女の家に押し入ってから空気銃の用意をするという手際の悪さ。プロを殺害しようとしているのだから周到な準備をもっとするはずだろう。さらに爆弾製造係が実は素人だったというお粗末なおまけまでつく。


そのあたり、暗殺団の訓練度の低さが非常に気になる。首相直々の暗殺プロジェクトなのだから、もっと心身ともに鍛え上げられたメンバーを厳選すべきなのに、なぜアヴナーたちのようなレベルの人間に任せたのだろうか。現実はこんなものなのかもしれないが、少なくとも張り込み・尾行のテクニックに関しては、売れない探偵でももっと上手にこなすことは間違いない。血で血を洗うテロは憎しみ以外何も生み出さない、という主張はよくわかるが、リアルな映像を追求するならばもっとディテールを大切にするべきだろう。


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