こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

白バラの祈り

otello2006-02-11

白バラの祈り SOHPHIE SCHOLL

ポイント ★★★*
DATE 06/2/7
THEATER シャンテ
監督 マルク・ローテムント
ナンバー 20
出演 ユリア・イェンチ/アレクサンダー・ヘルト/ファビアン・ヒンヌフフス/アンドレ・ヘンニック
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ナチス支配下のドイツに、もちろん言論の自由はない。しかし、国家に対する反逆罪に問われた人間に対して思った以上に人間的に振舞う司法当局の姿勢はインテリジェンスすら感じた。裁判官、判事、検事らがいっせいに「ハイル・ヒトラー」と敬礼するシーンには驚いたが、高圧的な態度ではあるがあくまでも暴力ではなく対話で決着をつけようとする。被告にも一応発言の機会を設ける。その間、拷問の類は一切なく、ナチスに対する先入観を覆された。


'43年、スターリングラードでの大敗を機にミュンヘンで反ヒトラー宣伝ビラを撒いたゾフィーは兄とともに逮捕される。容疑を認めないゾフィーに対し、尋問官モーアは理路整然と調書と証拠を並べていく。やがて、二人の対話はナチス思想対人間の良心という構図に変化する。


映画の大半はゾフィーと尋問官、裁判官の対話で進行する。尋問官はゾフィーを宥め、透かし、時には罵倒する。また、裁判官はナチズムのすばらしさを延々と説く。彼らが大真面目に語るナチズムは、現代人から見ていかにばかげた物であるかを映画は饒舌に語る。ただ、ゾフィーが理論的にナチズムに対して反論していないところが物足りない。法廷で傍聴に来た軍人たちに少しでもナチスの非を納得させるくらいの理論武装をしておくべきだろう。


すべてのドイツ人がヒトラーを支持したわけではなく、間違った戦争に対しては命がけではっきりとノーと言う人々がいたことに安心を感じた。戦後のドイツ人自身がはっきりとナチズムを否定すると同時に、ナチズムとはいったいなんだったのかを問いかける。そしてその一見高邁な理想も偏狭なナショナリズムにしかすぎないことを、法廷での裁判官とゾフィーのやりとりのなかで喝破する。そのあたりのドイツ人の精神は、「男たちの大和」に涙する日本人とは比較にならないほど成熟している。


↓メルマガ登録はこちらから↓