こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アメリカ、家族のいる風景

otello2006-02-24

アメリカ、家族のいる風景 DON'T COME KNOCKING

ポイント ★★★
DATE 06/2/21
THEATER シネスイッチ銀座
監督 ヴィム・ヴェンダース
ナンバー 27
出演 サム・シェパード/ジェシカ・ラング/サラ・ポーリー/ガブリエル・マン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


映画俳優としてそれなりに成功を修めてきた男が、人生の晩年にふと心に浮かべた家族への郷愁。彼には自分勝手に暮らしてきたことへの反省もなく、周りの人間を傷つけてきたことへの贖罪もない。今の仕事や生活をすべてなげうって、思い残してきたことへの決着をつけようとしているわりには、どこか覚悟が足りないこの主人公はあくまでも人間的である。気持ちがあっても行動はなかなか伴わない、誰かに背中を押してもラウのを待っている。そんな、ウジウジしたもはや老年の域に達したおっさんの心情が丁寧に描かれている。


映画俳優のハワードはロケ地から抜け出し、30年ぶりに母親の元をたずねる。母親から、かつて自分が妊娠させたドリーンという女のことを聞き、彼女と自分の子供に会いに行くために旅にでる。ドリーンはレストランバーでウエイトレスとして働き、息子のアールは売れないミュージシャンになっていた。


ロケ地でのコンテナの散らかりようと母親のスクラップブックから、ハワードという男の性格を描写するテクニックはみごと。ほんのわずかなシーンで、彼がだらしなくて自分に甘く自分勝手で幼児性が抜けない男ということを饒舌に語る。だからこそ、ロケ地から母親、そして息子のもとにたどり着くまでの道のりでハワードを成長させるべきではないのか。まあ、60歳を過ぎた男に成長はなくても、少なくとも自分を見つめなおすチャンスくらい与えるべきだ。だいたい、昔女に産ませた息子にのこのこ会いに行くなどという陳腐な物語なのだから何らかの劇的な仕掛けがあってしかるべきだろう。


それでもヴェンダース監督の、老人が頑固にIT技術を拒むように人間なんてそんなに変われるものではないという主張はぶれない。若い人間はこれからどんどん変わっていけるが、晩年を迎えた男にそんなことは期待してはいけない。主人公を甘やかせ過ぎるような気もするが、同世代の人間をいつくしむような視線がやさしかった。


↓メルマガ登録はこちらから↓