こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シリアナ

otello2006-03-08

シリアナ SYRIANA

ポイント ★★★
DATE 06/3/4
THEATER 109シネマズ木場
監督 スティーブン・ギャガン
ナンバー 33
出演 ジョージ・クルーニー/マット・デイモン/ジェフリー・ライト/クリス・クーパー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


中東の石油利権をめぐって暗躍する米国の工作員とビジネスマン、アラブの王族と原理主義者。結局、世界は自由主義経の名の下に搾取が幅を利かせ、多くの貧困の上に一部の金持ちが君臨するという図式がまかり通っている。そしてアメリカの唱える正義と秩序とは、その図式を守るための方便に過ぎないことをこの作品は鋭く抉り出す。しかしその作者の強烈な意気込みは、バラバラに解体されたエピソードのために統一感のないモザイクのような印象。なぜもっとストレートにわかりやすい構成にしなかったのだろうか。


中東の産油国では王位をうかがう改革派の王子が中国企業に開発権を与えるが、利権を失いそうになるアメリカの石油会社が米政府を巻き込んで保守派の若い王子を担ぎ出す。米国政府は自国の石油利権を守るために改革派王子を暗殺する計画を立てる。


石油利権というわかりやすい題材を扱っているのにもかかわらず、物語は複雑に錯綜する。基本的には米国に搾取される産油国という構図なのだが、一方で産油国パキスタンの出稼ぎ労働者を二級市民のように扱う。改革派王子も自国および自国民を米国の搾取から守ろうとする反面、パキスタン労働者の職を奪いテロに走らせるのだ。もはや何が善で何が悪なのか誰も断定できない。そんな中、あらゆる登場人物が自分の利益のために動くのに対し、イスラムの教えに帰依しテロリストになったパキスタンの若者の純真な姿がまぶしく見えた。


手持ちのカメラは時おり手ブレを起こし、不安定な世界観を象徴している。そして経済がグローバル化しするほど貧富の格差は広がり、嘘と欺瞞、裏切りと裏取引、暗殺と自爆が蔓延する世界は経済発展を追求するうちは決してよくならないというこを明示する。ただ、そういうメッセージもきちんと整理されてこそ伝わるはず。あえて観客の理解力を試すような構成にしているところが少し鼻についた。


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