こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブロークバック・マウンテン

otello2006-03-10

ブロークバック・マウンテン BROKEBACK MOUNTAIN


ポイント ★★★
DATE 06/3/6
THEATER シネマライズ
監督 アン・リー
ナンバー 34
出演 ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール/アン・ハサウェイ/ミシェル・ウィリアムス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


緑濃い山の中は真夏でも夜は冷え込み、時には雪が積もる。そんな厳しい自然環境の中で羊の群れを見張りながらテント暮らしを続ける現代のカウボーイたち。数週間に及ぶ二人だけのキャンプ生活の中で、男同士の間に友情以上の感情が芽生えるのは自然な成り行きだ。そして、いきなりの肉体関係に飛躍する。単調だが過酷な暮らしの中で、頼れるのはお互いだけ。それまで抑えていた感情が一気に爆発するシーンは、越えてはいけない一線を越えてしまった共犯関係の罪悪感が途方もないもろさを伴い、スクリーンに漂う。


羊放牧場の季節労働者として雇われたジャックとイニスは山中で共同生活を送るうちに結ばれる。契約が終わり二人は別れるが4年後に再会、失われた時を貪るように求め合う。お互いが結婚し、家庭を持った後も年に数回逢瀬を重ね、愛に満ち溢れた数日間を過ごすが、やがて二人の間に隙間風が吹き始める。


二人が羊を追い山野の中で生活するシーンのみずみずしいまでの美しさ。草木の息吹と川のせせらぎ、柔らかな日差しをもたらしたかと思うと怒るように荒れる空。自然の営みのなかで行動を共にする二人の姿を丹念に描きこむことで同性愛の感情を包み込む演出は精緻で強烈な求心力を持つ。しかし、二人の愛し合う姿をまるで男女のラブシーンのように描くので、レディコミのボーイズラブ漫画を見ているようだ。


家族を捨ててでも二人の関係を成就させようとするジャックと、偏見に対する恐れから拒み続けるイニス。なかなか会えない上に禁じられた愛であるがゆえに燃え上がる、ということは理解できる。しかし、お互いに気持ちをぶつけ合い、相手のことより自分の気持ちを優先させたとき、痴話げんかのレベルにまで落ちる。もはやそこには神聖な愛の領域ではなく、エゴのぶつかり合い。やがてジャックは他の男の元に走り、それが元で殺される。やはりブロークバック・マウンテンでの出来事は思い出に留めておくべきだったのだ。同性愛におぼれる動機やきっかけは誰にでもあるという真実を突きつけるには、せつな過ぎるラストシーンだった。


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