こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒストリー・オブ・バイオレンス

otello2006-03-17

ヒストリー・オブ・バイオレンス A HISTORY OF VIOLENCE

ポイント ★★★*
DATE 06/1/13
THEATER シネマート
監督 デイヴィッド・クローネンバーグ
ナンバー 7
出演 ヴィゴ・モーテンセン/マリア・ベロ/エド・ハリス/ウィリアム・ハート
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


たとえ忘れたつもりになっていても、人間は自分の過去から逃げ切れるものではない。ちょっとしたきっかけで過去はより大きな亡霊となって襲いかかり、隠していた過去が本能となって出現する。そして結局は自分自身で落とし前をつけなければならない。そんな過酷な運命を背負った男の姿をクローネンバーグは濃密な映像で緊張感たっぷりに描いている。暴力や心理描写もリアルで、飛び散る血と血塗られた現実におびえる登場人物の姿は固唾を飲まずにはいられない。


小さな町でコーヒーショップを営むトムは、ある日押し入ってきた強盗二人を一瞬で射殺し、ヒーローとして新聞・テレビをにぎわす。数日後、ギャングが彼の元を訪れ、「お前はジョーイだ」とフィラデルフィアの殺し屋の名を告げる。ギャングはトムの周りにしつこく付きまとい、やがて家族にまで手を出す。


平穏な暮らしに突然訪れる暴力の嵐。トム自身もまた以前は暴力を生業にしていたことが明らかになるにつれ、家族とのかかわり方に変化が訪れる。特にいじめられっこだった息子が凶暴になり、銃の引き金を引くまでになるのは、暴力を封印して生きてきたトムには耐えられないだろう。そんな息子に自分の過去を見るトムをヴィゴ・モーテンセンは好演している。そして家族を守りギャングとの決着をつけるため、トムは長い旅に出る。


結局、トムはギャング時代の仲間をすべて殺すことで過去を清算する。しかし、これでは暴力を肯定する結果にしかならない。トムが命を狙われる原因もトム自身にあるはずだし、最終的には何人も人を殺したトムを家族は許した上に受け入れるのだ。自分や自分の大切なものを守るためには仕方なく暴力を肯定し、その暴力の肯定が新たな暴力を生むという悪循環。しかし、暗くて絶望的な色調の映像が、暴力の先に明るい未来がないことを強烈に示唆している。


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